前回まで、
SID、再び
1
「さぁオマエら6月ももう後半だ、来週には一学期の期末テストがあるからしっかり勉強するんだぞ」
担任が怒鳴るような声で言い放った。
俺は若干焦りぎみだ。
理由は単純で、学校終わって家に帰るとすぐにパソコンへ向かいログイン。
勉強なんて一切していないオンラインゲーム漬けの毎日を過ごしていたのだ。
毎日積み重ねのお陰でDINAのレベルは結構上がった。
これも永太に教えてもらった方法のおかげだ。
- DINA
- レベル上げの画期的な方法教えて
- GINJI
- ひたすらモンスターを倒して経験値を得る
- DINA
- えっ、それだけ?
- GINJI
- 甘えんなw
まぁ楽な方法はなかったけれど、DINAのレベルは27まで上がった。 装備も『見習いの大剣』から『アイアンロングソード』って名前のちょっと値段が高めの大剣に変えた。
そして何より。、スキルを覚えた事が一番嬉しかった。
通称『序盤スキル』と言われる、最初に覚えると有利になるスキルで『回転斬り』を覚えたのだ。
これでPVも多少有利になるだろう。
…
「おい、瀬川ッ、聞いてるのか!」
先生の声で俺は我に帰った。オンラインゲームの事で頭がいっぱいだったのだ。
「はっ、スイマセン聞いてませんでした!」
条件反射のようにすぐ出た平謝りでその場を凌いだ。
担任はそんな俺を見て、呆れながら俺に言う。
「しっかりしろよ、最近お前おかしいぞ」
おかしくはない、ちょっと熱中し過ぎてるだけ。
と言いたかったが、
「大丈夫であります」
もちろん言えるはずがない。
(早くホームルーム終わってDINAのレベルを上げないと)
先生に注意されながらも頭の中はゲームに支配されていた。
これはもう中毒なのだろうか。
2
家に着いた、これから机に向かって勉強ターイム。
…
って思ったんだけど、勉強開始5分でパソコンに向かった俺。
つくづく自分の情けなさを感じてしまう。
「いや、ゲームは息抜きなんだ。そう、ゲームが終わったらまた勉強するからいいんだ」
と自分に言い訳をしてログインした。
この二週間で会話の仕方などを他人の会話を見ながら覚えていった。
お陰である程度チャットで話せるようにもなったし友達もできた。
MOMOKO(モモコ)ってプレイヤーとこの前チャットで盛り上がっちゃって、そのままお友達登録しちゃったわけ。
お友達登録しておくと、対象のプレイヤーがいつログインしたかすぐにわかるんだよね。
「…今日はMOMOKOログインしていない、 残念だ」
残念の気持ちを抱えながら、俺はいつもの掲示板へ向かう。
いつもながら書き込みに対する返事はない。
ため息混じりで掲示板を閉じ、フィールドに向かおうとしたその時、見覚えのあるプレイヤーが掲示板の前に立っていた。
三角の帽子、赤いローブ…
ポインタをそのプレイヤーに合わせると、やっぱりSIDだった。
俺はSIDと話しがしたかったので、近づいてみることにした。
しかしSIDもこちらに気づいたのか、俺が近づくと自分から距離を取る。
近づくDINAに離れるSID、追いかけっこは草原まで続いた。
力ずくで止めることは出来ないと判断したので、チャットを叫ぶモードに切り替え素早く入力した。
- DINA
- 無駄な抵抗はやめて止まりなさい!
しかし、SIDは止まろうとしない。
「やっぱりダメか、こうなったら」
使うべきではないと思ったが、今SIDを止めるにはその方法しかないと考え『奥の手』を使うことにした。
「よし、俺の一撃を喰らえ!」
壊れるような勢いでエンターキーを叩いた。
- DINA
- SID、愛してるって言ったじゃない!
- DINA
- 覚えてるでしょSID、昨日の夜
- DINA
- XXXがXXXでXXXだったじゃない!
- DINA
- 君は俺のこと一番大切だって言ってくれたよね、SID
- DINA
- SIDはアナタとずっと一緒って言ってくれたじゃないか
- DINA
- だから信じてXXXやYYYもしようって言ってたよね
奥の手、それは叫ぶモードにしてデタラメなコトを言う作戦。
決して放送コードに引っかかるからXやYにしたわけではない、適当だ。
そしたら、SIDから俺に近づいてきて一言、
- SID
- 止まるからそれ以上言わないで恥ずかしい
だってさ。
3
始まりの街まで戻り、改めて2人で話し合った。
- SID
- …話ってなに
- DINA
- 掲示板見たよね、見たよね、一緒にチームを組まない?
俺はチームにSIDを誘った。
実際今のメンバーではGINJIのレベル42が最高。これじゃこの先少し不安。
だから今のうちに無所属の強いヤツを俺のメンバーにしたかった。
- SID
- …興味なし
あっさり断られてしまった。
だが、ここで引き下がったら負ける。
変なところで男のプライドを持ちながらも、再度説得をしてみる。
- DINA
- 今はしーちゃんの力が必要なんだよ
- SID
- …しーちゃんって誰?
- DINA
- もちろんキミw
- SID
- …貴様しね
ちょちょ!いくらゲームでも『しね』はないでしょと、そのまま打とうとしたがすぐにSIDからチャットが返ってきた。
- SID
- アンタ今どれだけ危険なことしているかわかってるの?
SIDの言葉を理解できないでいた。
オンラインゲームでの危険なことってなんだろう。別に命を狙われるわけでもないし。
- DINA
- 危険なことって、どんなこと?
- SID
- あの掲示板に書いてあった事そのままよ。アンタ今ヤバい連中に目を付けられてるんだからね
現実に言われると恐怖を感じることも、オンラインゲームでは不思議と感じなかった。
むしろそんな恐怖で支配させるヤバい連中を倒そうと決心した。
そのためのチームだから。
- DINA
- そんなヤバい連中に立ち向かうのが俺たちじゃないか!この世界の正義は俺たちなんだ!
- SID
- もう少しは言うことを聞きなさいよ!
今の俺は無敵だ。どんなことがあっても立ち向かっていける。必死になってSIDを説得しようと無我夢中でキーボードを叩く。
そんな時だ。
- KARAS
- それなら見せてもらおうか、その正義というヤツを。
誰かが会話に割り込んできた。
なんか変なヤツだと感じたが、無視して会話を続けようとした。
しかしSIDは殺気を感じたのかすぐにその場から逃げようとした。
- KARAS
- 逃さねーよw
KARASはSIDを指名しPVをスタートさせた。
俺の思考が追いつかないまま、KARAS vs SIDのPVが始まってしまった。
4
俺はSIDとKARASの戦いを観戦しようとしたのだが、
「これどうやったら観戦できるの?」
俺は観戦にするための方法を知らなかった。
「はぁ~どうしよう…永太は今勉強中だろうしなぁ…」
悩んだ末、自分で観戦方法を探すことにした。
しかし、
「えーと…ココをこうするのかな?」
- お知らせ
- 全ての装備が外れました
「あっ、ヤベーヤベー」
観戦方法を探すのに困難を極めた。どこを押しても観戦に関係するボタンが無いからだ。
そうこうしている間にもSIDはKARASというまだ未知なるプレイヤーと戦っている。
5
試行錯誤を繰り返すこと3分、ようやく観戦のボタンを見つけた。
「やっと見つけた、これで観戦できる」
ふぅと安堵のため息を漏らしボタンを押した。すると、
- お知らせ
- 観戦禁止設定になっています
「なぁにぃぃぃぃ」
今まで装備が外れたりと色々苦労しながら見つけた観戦が禁止設定になってたなんて。ため息と一緒にやる気まで吐き出してしまった。
俺があたふたしている間に戦いは終わったみたい。
結果は、
SIDが倒れて画面から消えた。
「SIDが、負けた」
PVで負けた者やゲーム中に体力が無くなった者は自動的に病院へ運ばれる。だからPVの後で残ったプレイヤーが必然的に勝者を意味する。
- KARAS
- 次は、お前だ
KARASは俺にPVを挑んできた。
覚悟を決めた俺はKARASに挑む。
続く。
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