前回まで、
SID、再び
6
KARAS
レベル92
得意武器は双剣
まるで原始人を思わせる、布をただ腰で縛ったような質素な衣装だ。
そしてカラスらしく全身黒。 更に背中には『羽根』らしきものまでついている。
一言言わせてくれ。まずレベルが92って時点で歯が立つわけがない。
とりあえず大剣での接近戦は控えて、装備をハンドガンに変えて遠距離戦で挑むことにした。
KARASの体力は180でDINAが210。レベルは高いが体力で俺より30も下回っている。
近づかなければ勝てるかもしれない。
fightの合図でPVは開始された。
しかしKARASは攻撃してこないでチャットを使って俺に話しかけて来る。
- KARAS
- 見たよ、掲示板
あの時は「力を見せてもらおうか」とか悪役みたいなセリフを言っていたのに本当はいい人じゃないか。
そう感じた次の瞬間、
- KARAS
- 笑えるよ、バカげてるww
正義なんてこの世界にあると思うのか?
はっきり言ってジャマだ!失せろwww
KARASは俺の気持ちを踏み躙った。
怒りのボルテージがMAXになったのは言うまでもない。
というか初対面の人にここまで言われる筋合いはない。失礼すぎやしないか。
- DINA
- アナタに言われる理由はありませんが何かw
- KARAS
- オマエの正義感の使い所が間違ってんだよ!
- DINA
- どういうことですか?初心者狩りをしたり弱いものをPVで搾取するプレイヤーを成敗することにいけない理由などあるのですか?
- KARAS
- なら俺はオマエを成敗しなければいけない。
そもそもこの世界には“善”も“悪”もない
だからこの世界で他人を襲っても罪には問われない
PVというシステムで合法化されているんだからな
現実のルールをココに持ち込むな!
確かに、KARASの言うことは正しいのかもしれない。議論という戦いでは俺は完全に負けてしまった。
ならばPVでねじ伏せるしかない。しかし俺は勝てるのだろうか。
俺はコントローラーを持ち、不意打ちを仕掛けた。
7
コントローラのボタンを押し、ハンドガンを乱れ撃ちした。
絶対に避けられないと確信していた。
しかしKARASは弾丸全てを、その場回避で避けてしまった。
体力は180のまま、攻撃は一発も当たってない。
- KARAS
- そうそう、オマエ俺が誰だと思って戦ってるんだ?
誰ってKARASに決まってるじゃないか。チャットの意味がわからなくて返信に困ってしまった。
- KARAS
- わからないのなら教えてやる。
俺の背中に羽根がついているだろ?
これは強いプレイヤーの証としてもらえる羽根なのだよ。
この羽根のついたプレイヤーは『ハネツキ』と呼ばれている。
俺みたいになw
なるほど、ハネツキというのか。と感心している俺だった。
しかし、状況は変わらない。KARASを倒さなければ。
KARASに返事をすることも忘れ、俺は後ろに下がりなが ら更にハンドガンを撃ちまくった。
かなりの数を撃った気がする。すでに50発は打ったと思う。
だがKARASのHPはまだ180のままだった。
1発も当たっていない。全て回避されたのだ。
更にKARASは弾丸を避けながら俺との距離を縮めてきた。
「やばい!」
すぐに装備をハンドガンから大剣に変えた。
8
KARASはゆっくり歩いてDINAとの距離を縮めている。
俺はKARASが攻撃範囲にくるタイミングを待っていた。
だから俺はKARASがDINAの攻撃範囲になった時に、最近覚えたスキル『回転斬り』をお見舞してやる。
回転斬りでKARASを吹っ飛ばし、装備をハンドガンに変えて遠距離で襲撃しようという戦略。
名付けて『ホームラン&アウェイ』作戦。我ながら完璧な作戦だ。
KARASとDINAの距離はどんどん近くなって来ている。
30、20、10、遂に攻撃範囲に入った。
「食らえぇぇ!回転斬りぃ!」
叫びながらスキルを発動、タイミングはバッチリだ。
『ザクッ』という相手を斬りつけた音が聞こえた。
「当たったか」
よく見ると、KARASはDINAの攻撃を片方の剣で受け止めていた。
そしてもう片方の剣でDINAを斬った。
KARASの攻撃でDINAは後方に吹き飛ばされてしまった。
「カウンターだ」
間違いない。KARASは俺の攻撃する瞬間にカウンターを発動していた。
「クソッ何かないのか」
焦っていた俺は藁も掴む思いでスキルを探してみた。
当然覚えているスキルは『回転斬り』しかなかったので、 使えるスキルはない。
しかし、俺は発見してしまった。
特別スキル『回転斬り大砲』 範囲:遠距離
神は俺を見捨てなかった。
回転斬りに大砲とはイイ組み合わせだ。もしかしたらKARASを一撃で倒せるかもしれない。
しかも遠距離なら吹き飛ばされて距離が離れている今しかない。
俺はこの一瞬にかける。
「回転斬り大砲発動!」
スキルを選択しエンターキーを押したら、DINAから虹色のオーラが発生した。目も鋭くなって頼もしい。
DINAのモーションは先程と同じ回転斬り。
そしてDINAha回転斬りをしながら装備している大剣を放り投げたのだ。その姿はハンマー投げを想像できる。
投げられた大剣は勢いよくKARASに向かっている。
だが、ジャンプをして簡単に避けられてしまった。
- お知らせ
- DINAの装備が素手になりました。
「えっ?」
俺は焦った。もうKARASに負けるとかそんなこと関係なく、俺の大切な大剣が無くなってしまったからだ。
あたふたしてる間にKARASはDINAの目の前に来ていた。虹色のオーラをまといながら。
- KARAS
- バイバイ
チャットにはこの言葉が残されていた。
9
DINAが目覚めた場所は病院だった。
あの後KARASは『トルネードハリケーン』っていうスキルを発動し、一撃でDINAを倒した。
やはりレベル92と『ハネツキ』という時点で勝目がなかったんだよ。
でも不思議なコトがある。
あのKARASってプレイヤー。初めて会った気がしないんだ。
なんかどこかで会ったようなそんな感覚。
考えながら病院を後にすると、そこにはSIDの姿があった。
- SID
- ちょっと!どうしてくれるのさ!
- DINA
- はぁ?何が?
感動の再開の時にいきなり怒鳴りつけて来るとは、なんて礼儀知らずな奴なんだ。
- SID
- アンタのせいで私のレアアイテム取られちゃったじゃない!
- DINA
- えっ、俺はしーちゃんのアイテムなんて知らないし…第一何故に俺のせい?
- SID
- あの時のPVでKARASに取られたの!アンタの話聞いてなかったらKARASにも会わなかったのに!
ってかどさくさに紛れてしーちゃんって呼ぶのやめてくれる
あ、やっぱり。俺のどさくさ作戦うまくいくと思ったのだが。
- SID
- アンタは何取られたの?
SIDに聞かれて確認してみることにした。すると、
- DINA
- ハンドガンが取られた
回転斬り大砲で失った大剣とは別に持っていた装備ハンドガンが見当たらなかった。
だが、一つ疑問が浮かんだ。
- DINA
- だけどしーちゃんと戦った時は俺何も取られてなかったけど
SIDと戦った時は何も取られてなかったのだ。
だから今回だけ道具を取られるのはオカシイと感じた。
- SID
- あれはアンタが無駄に薬草ばかり持ってたからかわいそうだと思って薬草をもらっただけ
ってか、消えたい?
…消えたくないっす。
いつかSIDの中の人から呪い殺される気がする。
- SID
- KARASに取られたということは、必然的に 『Team X』に持っていかれたと同じってことになるね
- DINA
- チームえっくす?
- SID
- そう、このオンラインゲームで最強と言われるチームよ
- DINA
- KARASもTeam Xに所属しているの
- SID
- そうよ
ゲームを始めてから2週間くらいしか経ってないから、強いチーム、組織力のあるチームなど界隈の知識は全くなかった。
この場でTeam Xは最強のチームだということを初めて知ったのだ。
- SID
- 決めた!
- DINA
- 何を?
- SID
- DINAの仲間になるってやる
- DINA
- えっ、いいの?
- SID
- か、勘違いするな!私のレアアイテムを取り返すまでだ
- DINA
- なんだw でも嬉しいよ
- SID
- 目立つ行動をしているからTeam Xに目をつけられてるしなw
遭遇率も上がるw - DINA
- えっそれだけの理由?
ってか俺Team Xに目つけられてるの?
それがSIDのいう「ヤバい連中」ってやつ? - SID
- 他にどんな理由があるんだ?弱いのにw
あれだけ宣戦布告みたいに目立つ行動をしていたら嫌でも目につくさ
強いやつ、悪いやつを倒してやるなんて叫んでいたらね
確かにみんなに聴こえるように叫ぶモードで宣言したし、掲示板にも正義のチームってアピールしてたしね。
ってか「弱いのにw」は余計な一言じゃないか。
でも仲間になってくれるのはとても嬉しかったので勢いで、
- DINA
- ありがとう^^しーちゃん
と打ってしまった。
SIDが仲間になっておめでたいが、その後俺はどうなったかは想像にお任せします。
続く。
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