前回まで、
勉強中
1
只今俺の部屋で勉強中。
期末テストはちょうど一週間前。
テスト対策と俺をオンラインゲームから遠ざけるという理由でこの勉強会は始まった。
永太とカナタと俺の3人で、最初の科目である日本史の勉強をしている。
「えーと…アウストラロピテクスは、
源平の合戦に十字軍を派遣し勝利した後、
鎌倉に金閣寺を建て、
本能寺にてペリーに開国を迫られ、
第二次世界対戦が始まった…っと」
「『始まった…っと』じゃねーよ、歴史ゴッチャゴチャだし、しかも範囲越えてるし」
「な…なぜ俺の…さては永太!エスパーか!?」
「独り言が丸聞こえだよ」
その言葉に俺は少しの恥じらいを覚えた。
独り言を他人に聞かれる程恥ずかしいものはない。
しかも横では、カナタが声を抑えて必死に笑いを堪えてる。
「カナタも普通に笑えばいーじゃんか」
「…だって笑ったら失礼じゃん、ふふっ」
吹き出してますけど。
というか半笑いで喋ってませんか。
「…源平の合戦に十字軍ってあり得ない、ふふっ」
呟いているつもりだろうけど聞こえてますよ。
「…ってかバカだよね、ふふふっ」
おそらくカナタの嫌がらせだろう。
俺はカナタに怒鳴りつけた。
「大胆に笑えや!」
変なことを言ったつもりはないのに、カナタはお腹を抱えて大笑いした。
2
この勉強会が始まって30分くらい経っただろうか。
俺の頭の中は最早オンラインゲームのコトでいっぱいだった。
つまり『上の空』ってヤツ。
目の前にパソコンがあるのにゲームができないもどかしさ。
もう勉強なんてしなくてもいいって思ってた。
決意した俺は席を立ち、パソコンに向かって一直線!
…のはずだった。
永太に手を掴まれてしまったからだ。
「は、話してくれ!俺はオンラインゲームがしたいだけなんだー」
永太の腕を払いながら必死になってパソコンの前に行こうとする。
「オマエがゲームやったらこの勉強会の意味がなくなるだろ」
だが永太も必死に俺を押さえつけようとする。
俺たちはもがきまわった挙句、お互いベッドの上に倒れ込んでしまった。
その隙をつかれ、永太に羽交い締めにされた。まるで犯人確保みたい。
俺は悪あがきのつもりで泣きそうな情けない声で、永太に訴える。
「なぁ、この世には勉強よりも大切なことがあるんじゃないか?」
「いや、今は勉強の方が大切だし」
永太の反応は意外に冷たかった。
「ってかそれ演技だって知ってるし」
俺の迫真の演技まで見破っていた。
「クソッ!!何故に演技だとバ…」
「バカなことはやめて勉強するぞ」
「…ハイ」
俺は渋々席についた。
3
「ってかさ、なんで永太とカナタってそんなに頭がいいのさ?永太は許せても一緒にいる時間が長いカナタは許せない」
実は永太もカナタもクラスの中では結構頭が良い部類に入る。
入学して最初の試験で、永太はクラス2位。カナタはクラス8位。
「ハジメとは出来が違うからねー」
カナタは自分の頭を指差しながら自慢する。なんかムカつく。
「俺のはもっと上の高校目指してたのさ」
永太はしみじみと語った。
「ねぇ、その目指してた高校ってどこなの?」
「…東高」
「えっ!東高っていったらかなりランク上だよ、そこ目指してたんだー」
「まぁね、東高入るために結構勉強したんだけどね…結局落ちちゃった」
言葉とは真逆で、笑顔を見せた永太。
その笑顔は清々しく見えたが、どこが悔しい気持ちも入り交じっているようにも見えた。
「でもこれで良かったと思ってる。だって勉強なんてやる気になればいつでも出来るし、東高なんてランクの高い高校行ったって勉強についていけるかどうかなんてわからなかったし、東高行かなくったって…悪いわけじゃない」
その言葉はまるで自分で自分をフォローしているように聞こえる。
俺は永太の肩を叩きながら笑顔で言った。
「うんうん、永太もたまには良いこと言うじゃん」
「オマエは少し勉強しろよ」
…少々言葉がキツいよ、永太。
4
「なぁ、1つ思ったんだけどいいか?」
俺はシャーペンを置いて永太に訊ねてみた。
「ん?なんだ?」
永太も手を止めた。
「あのさぁ…なんで勉強しなくちゃなんないのかな?」
オンラインゲームの世界ではモンスターを倒したり、ストーリーをクリアしたりと、現実世界とはかけ離れた優雅な生活を送れるような気がした。
少なくとも今の生活よりは充実出来ると思う。
「うーん、どうかな」
永太は腕を組んで考えてる間、しばらく沈黙が続く。
その間にもカナタは歴史上の偉人の名前をノートに書いている。
16年カナタと一緒にいたけれど、真剣に勉強している姿は初めて見た。
「きっと…どこに行っても何になっても同じだよ」
永太の考えがまとまったらしい。
「同じって?」
「学校行っても、仕事しても、老後でも、動物でも、RPGの主役になった時でさえ、今と同じ苦労をすると思うんだ」
「そうかなぁ」
「きっとそうだよ」
なんか納得がいかなかったが、永太の回答はこれ以外ないと思った。
「どうでもいいけどさバカハジメ」
ノートに記入しているカナタが怒った口調で喋りかける。
「そろそろ勉強しない?」
続く
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