前回まで、
実力と改造
1
電話で父さんといろんな話をした。
西高の2次募集を受けること、
友達と遊んで息抜きをすること、
母さんと上手につき合う方法などたくさん。
今まで誰にも言えなかったことを3年分一気に吐き出した気分。
「でもさ、西高を受験するのはわかったけど、僕友達いないからどうすればいいかわからないよ」
そう、僕には友達がいない。
でも父は即答で
『それならオンラインゲームをやってみたらいい』
とオンラインゲームを勧めてきた。
パソコンさえあれば誰でも参加できる空想の世界。
タイトルは、Sky Fliers Online。
「でも母さんが許してくれないし…」
『言わなくてもいい、悪いことをしているわけではないし、秘密にしたっていい』
「でも…」
『永太、お前は次高校生になる。この先自分で選択する機会が増えてくる。自分で進まなきゃならないんだ。他人の言いなりになるのは卒業しよう』
受話器から響く声が僕の耳を激しく叩き、父親のありがたい言葉を脳内にしまい込んだ。
2
電話を切った後、すぐにパソコンを開き、ゲームをダウンロードした。
勉強ばかりでゲームで遊ぶのは何年振りだろうか。
少なくとも中学3年間はゲームと無縁だった。
説明画面を見ながらキャラクターを作っていく。
全身黒のキトンをまとい、タイプは攻撃型、得意武器は双剣。
名前は、
「烏は頭がいいから…KARASにしよう!」
- 『KARAS』いい名前ですね。
こうして僕の『最初』のキャラクターKARASが誕生した。
3
西校の試験が終わったあとは、オンラインゲームにハマってた。
勉強も、嫌なことも、母さんのことも、
ゲームをしている時だけは忘れることができる。
KARASのレベルもスムーズに上がっていき、気がつくとハネツキになっていた。
1週間でハネツキまで到達するのはかなり実力のあるプレイヤーらしい。
春休みが終わる2日前。
ゲームにログインして間もなく、知らないプレイヤーに声をかけられた。
- ???
- 待っていたよ
1週間でハネツキになるなんて素晴らしい!
プレイヤーの名はNATSUHA。
この界隈で名を知らないものはいない。
Team Xの現在のリーダーでカリスマ的存在。
有名人に声をかけられて、気持ちが舞い上がっていた。
- NATSUHA
- KARAS君だね
我々と共にこの世界をぶっ壊そうではないか!
頑張ったって報われない世界。
勉強ばかりしてた日常に嫌気が差していたので、
『世界をぶっ壊そう』
というワードが魅力的に映る。
- KARAS
- よろしくお願いします!
NATSUHAさんについて行きます!
感激した僕は夢中になってキーボードを叩いた。
4
NATSUHAは僕に世界をぶっ壊すプラグイン、『NATSUHA TIMER』をセットしてくれた。
たちまちKARASのレベルは147まで一気に上がった。
- NATSUHA
- 今世界をぶっ壊す鍵を開けた
君に使命を与えよう
・『王家シリーズ』を集める
・ITOSHIKIを倒す
使命を果たしたらまた新たな鍵を開けてやろう
その後の僕は狂ったようにたくさんのプレイヤーにPVを仕掛けた。
なんせレベルが147もあれば、ほとんどのプレイヤーは僕には勝てなかったから。
受験の時、僕だけ辛い思いをした。
それが今僕だけが楽しい思いでゲームの世界を駆け抜けている。
なんて素晴らしいんだ。
なんて楽しいんだ。
他人に勝つことが癖になって、ずっとずっとPVしていたくなる。
僕は無敵だ、
僕は最強だ、
僕は万能だ!
Team XにスカウトしてくれたNATSUHAに感謝だし、ゲームを紹介してくれた父さんにも感謝してる。
結局、春休みは母さんに見つからないようにオンラインゲームに勤しむ毎日だった。
続く
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