前回まで、
友達と変化
1
肇がはじめて話しかけてきた日は、戸惑いながらも嬉しかった。
今まで友達と呼べる人はいなかったし、何より肇がフランクに接してくれるから、旧友のように話すことができたんだ。
“僕”から“俺”になったのも肇の影響。
「永太は僕って柄じゃないから俺って使いなよ」
それ以降“僕”は“俺”なった。
カナちゃんと仲良くなったのも肇のおかげ。
初めて話した時は散々だった。
なんせ女の子と話すのは小学校2年生以来だから。
「は、は、は、は、は、は、は、はじめまきて、城戸永太です」
「あっ噛んだ、永太くん面白いねー」
俺のグダグダな自己紹介も、カナちゃんはニッコリ笑顔で返してくれる。
女神のような愛嬌が小さな顔一杯に溢れていた。
肇は「カナタになんて気使わなくていいんだよ」って言っていたけど、できるわけがない。
今はだいぶ慣れたけど、カナちゃんと話をするとまだドキドキする。
自分を保つというか、悟られないようにするのが精一杯だった。
でも、勉強ばかりで身動きが取れなかった中学時代とは違い、毎日が楽しかった。
2
6月になった。
俺はいつものようにパソコンの前にいた。
肇にオンラインゲームを教えたその日、マウスで画面を操作して新しいキャラクターを作っていた。
浴衣をまとい、髪は金髪。スピードタイプで得意武器は銃。
名前は考えても思いつかなかったからGINJIと入力。
肇と俺が仲良くなるきっかけの名前だからそのまま使うつもり。
どうしても、KARASでは会いたくない。
不正なプラグインでチートされているキャラクターを友達に見せるわけにはいかない。
バレたら幻滅されて、また1人に逆戻りになるから。
でも、消すことにも躊躇している。
なぜならKARASでPVすると簡単に勝てるからストレス発散にはちょうど良いからだ。
西校に通うのを機に塾を1つにしてもらったが(母さんは不満そうだった)、母さんのプレッシャーは変わらない。
テストのノルマは相変わらず98点だし、
「ランクが低い高校だから周りに合わせているとバカになるわよ」
と毎度のように発破をかけてくる。
肇やカナちゃんは西校で出会ったかけがえのない友達だし、友達のことをバカにする母さんが許せなかった。
でも東高に落ちてしまった自責の念で、反論することができなかった。
だからKARASを使って逃げている。
ダメだとわかっていてもやめられない。
KARASによって自分の思い通りになる世界だから、手放すことができなかった。
葛藤を抱えながらズルズルと引きずっている。
(KARASをこのまま使っていいのか)
迷いながらも、KARASでいる時はPVで勝利することに徹していた。
ただ1人、PVを挑んだITOSHIKIだけは、俺の迷いに気づいていた。
3
ITOSHIKIを倒すことが目的でもあったから、見つけたらすぐにPVを仕掛けた。
しかし、ITOSHIKIは強い。
チートプラグインで見せかけの強化をしたところで、敵う相手ではなかった。
いや、どこかでKARASを使うことの迷いが、コントローラを通じて伝わっていたのかもしれない。
- ITOSHIKI
- 何か迷っているな
中途半端な気持ちで私に勝つなんて10年早い
連続で放った弓矢を全て受け、画面端まで飛ばされてしまう。
立ち上がり体制を立て直すも、目の前にはナイフを構えたITOSHIKIの姿が。
- ITOSHIKI
- チェックメイトだ
- KARAS
- クソッ
- ITOSHIKI
- 何をそんなに迷っている
まるで本気を感じなかったぞ - KARAS
- KARASでいることが果たして正解なのかわからない
友達がログインしているから打ち明けた方がいいのか
でも友達を失いたくない
不思議とITOSHIKIに今の気持ちを正直に話してしまった。
素性も住んでる場所も、日本人かどうかもわからない、画面の奥にいる他人に。
- ITOSHIKI
- …よくわからないが、
本当の友情は滅多なことでは壊れない
より良くなるために叱ってくれるのが真の友情だったりするものだ
壊れるようなら偽物
本当に大切な友ならば、信じて打ち明けるしかない
この言葉を残し、ITOSHIKIはトドメを刺した。
俺は迷ったままここまで来てしまった。
友情が壊れることが嫌だったから。
でも、肇は俺を叱り友達とまでいってくれた。
信じきれなかった俺の気持ちは情けなさに変わり、
最後まで肇を信じようと心に誓った。
始まりの凶報
1
- DINA
- そう、俺はKARAS
いや、GINJIのRTのともだちだ!
俺はそう思っている! - KARAS
- DINA…
永太がしてたことは間違っているかもしれない。
本人が悩んでいるから『免罪』されることでもない。
だけど、俺は信じているんだ。
永太はチーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーで欠けてはならない大切な仲間だから。
たとえKARASになったとしても、必ずGINJIとして戻ってくる。
そう、信じているんだ。
- KARAS
- …ありがとう、だいな
…そして、ごめんな - DINA
- 気にすんなって
さ、立ち上がって始まりの街まで戻ろう
KARASは[おう]と返事をして立ち上がった。
ゆっくりDINAに歩み寄る。
一歩ずつ、でも確実に、2人の距離は縮まりつつあった。
- KILL°°BE
- 感動のナみだ?かナ???
アリがとうwwwwwwwww
いきなりチャットに割り込んできたそいつは、いつの間にかKARASの背後に立っていた。
黒のフルフェイスのヘルメット。
服は黒のバイクスーツ、胸には白い字で大きく『X』と書かれている。
そして背中には羽根。
一目でハネツキだとわかる。
顔がよくわからないからなんとも不気味な雰囲気が滲み出てる。
表示されてる名前はKILL°°BE。
あれ、どこかで見たことあるような気がする。
- BINGO!!
- みんな!早くKILL°°BEから離れるんだ!
BINGO!!さんが叫びながら走ってこちらに向かってきた。
- KILL°°BE
- それじゃア早速消えてもらおウカ
- KARAS
- えっ
KARASは逃げようとしたが、KILL°°BEに捕まり、PVがはじまってしまった。
2
俺たちは洞窟を出て、全速力で始まりの街に戻った。
KARASを1人残したまま。
- MOMOKO
- ねぇ、KARASを放っておいてよかったの?
GINJIだったんでしょ? - BINGO!!
- えっ!そうなのか!?
BINGO!!さんは驚いていた。
まぁ、BINGO!!さんは後から洞窟に来たのだから当時の状況なんてわかるはずもないか。
- DINA
- でもなんで洞窟から逃げるように声をかけたの?
戻って返り討ちにしてやろうぜ
BINGO!!さんの[KILL°°BEから離れるんだ!]の言葉で咄嗟に逃げたのだが、冷静に考えるとどうにも納得いかなかった。
ちょっと変わった名前と風貌でも俺たちと同じプレイヤーなのだから逃げる必要はないのでないか。
本当はKILL°°BEってプレイヤーにPVを挑んでKARASの仇をとりたかった。
- BINGO!!
- 行くな!ダメだ!KILL°°BEは君たちには危険すぎる!
BINGO!!さんは強い口調で否定した。
いつもは『!』を多用する筋肉バカって印象が強いけど、今日はいつもと感じが違う。
KILL°°BEという単語に反応してギャラリーもざわついている。
[また現れたのか]
[えっ、ヤバwwwwww]
[どこさ、近付かんようにしないと]
[オン ベイシラマナヤ ソワカ]
チャットの流れが早すぎてみんなとの会話を見逃しそう。
[なんでですか!KARASを置いてきたんですよ!]
と俺もBINGO!!さんに負けぬよう強い言葉で訴えた。
負けてもまた病院に戻ってきて復活するのだから(アイテムはなくなっちゃうけど)戦ってもいいじゃないか。
だが、
- BINGO!!
- KILL°°BEと戦って負けると、殺される
いや、
キャラクターのデータごと消されるぞ!
BINGO!!さんの言葉に絶句した。
- SID
- なっ!
- MOMOKO
- えっ?!
- DINA
- 消されるって、本当かよ
SIDもMOMOKOも恐怖していたに違いない。
BINGO!!さんの言葉もうまく処理できていない。
そもそもいちプレイヤーが他人のデータを消去できるなんておかしいだろ。
そんなヤバいやつが存在するはずなんてない。
- BINGO!!
- アイツ、陰でなんて呼ばれているか知ってるか?
- MOMOKO
- 知らないですー
:(;゙゚’ω゚’):
なんて呼ばれてるのー - BINGO!!
- Ghost murderer KILL°°BE
幽霊の殺戮者
運営が把握してないのか対処できないのか未だにBANを逃れているからこう呼ばれている!
アイツと戦ってゲームに戻ってきたプレイヤーはいないらしい
続く。
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