前回まで、
ともだち
1
俺たちは屋上にいた。
本当は体育館でバスケの1on1をやろうと思ったんだけど、先輩がバスケットゴールを占領していてできなかった。
だから屋上で風にあたりながら話をしているのさ。
「お前なんでそんなに女に興味ないんだよ!」
智也は激怒していた。
俺がオンラインゲームにハマっているのが気に食わないらしい。
「な、なんでって言われてもなぁ」
「しっかり女のアンテナ張ってないからこの歳になっても童貞なんだよ」
この歳って、まだ高校1年生ですけど。
智也は自分の考えが全て正しいみたいに、価値観を押し付けてくることがよくある。
高校入学してから、ブレザーを着崩して、髪染めて、暴力というか割と手が出るようにもなっていた。
ヤンキーというか、チャラ男化していく智也を友達として止めたかったけど、そんな勇気もない。
「いや女のアンテナというより、梢ちゃんとぶつかってテント張ってたんじゃないの?ハハハハ!」
こんな笑えない下ネタも平気で言う。
はっきり言って調子乗ってるんだと思う。
「いや、笑えよ」
そう言いながら、智也の右フックが俺の肩にヒットする。
俺は痛さで顔を歪ませながら中途半端に笑った。
「そんな不良まがいな格好してたら女にモテないぞ」
俺の言葉にムッとしたのか、少し怒ったような口調で、
「じゃあ肇は彼女いるのかよ」
と質問してきた。
「今は興味ない」
「だろうな」
智也はフンッと鼻で笑った。
てか『だろうな』って何だよ。
智也の言葉にイライラしながらも、そこは我慢した。
「あっ、俺はいるけどねー」
「いや、聞いてないから」
2
「ったくなんだよ、ノリ悪ぃなぁ」
「智也とは興味持つものが違うだけさ」
今はオンラインゲームのことで頭がいっぱいだから正直どうでもよかった。
「なぁ肇、お前も彼女作れよ。いいぞー女持つと」
「今は興味ない、それよりもやりたいことがある」
「ゲームか?」
俺は首を縦に振った。
そしたら智也は、嘲笑いながら、
「そんなもんに、何の価値があるのさ」
と言ってきた。
「価値はあるさ!仲間と共に試練を乗り越えたり、そこでの出会いがあったりと、オンラインゲームをバカにするな!」
かなり腹が立ってたみたい。
『そんなもん』って言われたことにカチンときてしまったというのが本音だ。
智也は俺を睨みつけながら、
「意味のないものは、無意味」
と強い口調でぶつけてきた。
怯む俺に更にたたみかけるように語った。
「例えそのオンラインゲームで1番を取った、世界を守ったとしても、現実世界は何一つかわらない。ましてや誰も褒めてくれないし場合によっては叱られたりする。利益にだって1円にもならない。こんな無意味なことやるだけ無駄なんだよ。違うが?」
俺は何も言い返せなかった。
ただ黙って智也の押し付けがましい正論を聞いているしかなかった。
智也は俺の肩をポンと叩き耳元で囁く。
「それよりも、高校生活もっと楽しもうぜ。言ってくれれば女の1人や2人肇にまわしてやるからよ」
と言いながら上機嫌に教室に戻っていった。
3
(世界を守ったとしても、現実世界は何一つ変わらない。)
(こんな無意味なことやるだけ無駄なんだよ。違うが?)
智也の刃物のように鋭い言葉が頭から離れなかった。
壊れたレコードのように何度も何度もループしている。
(智也…なんか変わっちまったな)
中学時代の智也は真面目だった。
俺のバカに付き合ってくれてたけど、毎回授業は受けてたし、素行が悪いこともなかった。
高校に入学してから永太と話すことが多くなったから智也とは疎遠になって。
知らぬうちに変わっていた。
変化に気づかなかったんだ。
きっと高校デビューしたのだろう。
高校入学と同時にハメを外しすぎて急に不良になるやつがいるって。
「…高校デビューってやつか」
無意識に呟いていた。
「誰がデビューするんだ?!」
俺の背後から怒り気味の声が聞こえた。
思わず後ろを振り返ってみると、国語の先生がすごい剣幕で怒鳴りつけた。
「コラァ瀬川!お前最近集中力が足らんぞ!国語流の気合注入してやろうか!」
先生は俺の左肩を押さえつけて、左耳たぶを掴み、ゆっくりと引っ張り上げた。
「い、イタタタタタタタタタタタタタタ…」
今日の俺の左耳は誰よりも高く、そして誰よりも長い間宙を舞っていただろう。
クラスメートはみんな俺の惨めな姿を見てみて大笑いしていた。
俺のリアクションが良かったから、という事にしておこう。
「先生、耳はヤバいヤバい!ヤバいってミミがー!」
必死の訴えが通じたのかようやく耳を解放してくれた。
左の耳たぶはじんじんしていて熱を持っていた。
これが国語流気合注入ってやつなのか。
「授業に集中するんだ、いいな!」
「…ハイ、スミマセンデシタ」
耳をさすりながら、涙声で先生に謝った。
続く。
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