前回まで、
Resetする?
Scrap & build
2
泣いている場合ではなかった。
どんなに涙を流しても、DINAは元に戻らない。
その事実は変わることはないから。
涙いっぱいの目を手で拭い、パソコンのディスプレイをみる。
スクリーンセーバーに切り替わっていた画面には文字が流れている。
“頑張れー”とか、“青春サイコー”とか、“Ahoooooooooooooo”とか。
特に意味のない文章が某ニコニコする動画のように流れてくる。
そんな中、1つの文章に思わず目を奪われてしまった。
“待っている人がいる”
いつもの俺だったら確実にスルーしているこの文章。
だが今回は違っていた。
今も戦っていると思うチーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーたち。
彼らの苦戦している姿が思い浮かんだ。
「…何もできないけど、せめて薬草だけでも」
独り言をブツブツと呟きながら、スクリーンセーバーを解除し、ゲームを起動した。
3
ログインし、キャラクター選択画面を眺めても、DINAはいない。
KILL°°BEに削除されたということをあらためて理解することになった。
だが、ここで落ち込んでいても仕方がない。
俺は新規作成をクリックした。
つい数ヶ月前にDINAを作成しているので、意外とすんなり進ことができた。
DINAを作った時は本当に手探り状態だったから、スラスラとマウスを動かす俺がなんだか別人みたいだった。
なんてことを考えているうちに、キャラクターは完成。
RPGの主人公がよく着ているような青い鎧。
髪の色は茶髪。
得意武器は前回と同じ大剣。
「なんかDINAよりカッコいいかも」
自惚ってわけじゃないけど、ゲームのキャラクターを作る才能あるんじゃないのかな、ってなんとなく感じた。
後は名前だけ。
でも、もう決まっている。
たまたま英和辞書をパラパラめくり、フィーリングで決めた。
名前の入力欄にポインタを合わせ1字ずつ思いを込めて入力。
入力した名前は、“JINK”。
これに決めた。
「後は、通りますように!」
祈りを込めてエンターキーを押す。
- JINK、いい名前ですね
無事登録完了だ。
3
急いで砂漠に戻ると、そこには異様な光景が広まっていた。
チーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーが心配そうに1人のキャラクターを囲んでいたからだ。
左の腕が肩からなくなっているキャラクターが、仰向けになって倒れている。
目の錯覚か、涙で霞んでいるだけか、体が少し薄くなっているようにも見える。
俺は急いで駆け寄った。
- JINK
- 大丈夫ですか!
- SKULDA
- ありがとう、また会えて嬉しいよDINA君!
DINAの名前を表示されて驚いた。
- JINK
- なんでその名前を
- SKULDA
- 俺は元BINGO!!だからね!
慌ててお友達登録を開くと、チーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーの他に、SKULDAが登録されていた。
- SKULDA
- KILL°°BEはこの手で倒した
killiNg saberを使って削除したからもう彼に怯えることはない
KILL°°BEと激しい死闘を繰り広げたのだろう。
失った左腕や血のような黒い水溜まりがそれを物語っている。
- SKULDA
- DINA君、今日でお別れだ!
4
(えっ、どういうこと?)
唐突すぎて、思考が追いつかないんですけど。
BINGO!!さんは実はSKULDAで、KILL°°BEと死闘を繰り広げて、今消えかかっていて、もうよくわかんないよ。
[BINGO!!さん、いやSKULDAさん、また共にゲームしてくれよ!戻ってきてよ俺みたいに!]
無我夢中でキーボードを叩いた。チャットで引き止めようと必死だった。
- SKULDA
- 俺の目的はKILL°°BEを倒すこと!
目的を果たしたからもう思い残すことはない! - JINK
- チーム⭐︎ダイナ(仮)に入ったのもKILL°°BEを倒すためだったんですか?
- SKULDA
- そうだ!
最初からそのつもりだ!
確かに、すぐにKILL°°BEを知っているかと俺にきいてきた。
訳もわからず(というか当時はまだTeam Xもよくわかってなかった)知らないっていったけど、きっと当時から倒そうとしていたんだろう。
でもさ、
BINGO!!さんがいると周りも明るくなったし、
困った時はいつでもサポートしてくれた。
BINGO!!さんもいてこそのチーム⭐︎ダイナ(仮)だろう。
こんな唐突に[今日でお別れだ]なんていわれると寂しいよ。
- JINK
- どうにか、戻ってきて
今日は視界がよく霞む。
キーボードを見ないと文章を書けないから一文作るのも一苦労。
- SKULDA
- DINA君、『人を呪わば穴二つ』という諺がある!
KILL°°BEに負の感情を抱いていた俺が消えるのはこれもまた必然!
後悔は、ないよ!
5
SKULDAの意志は固い。
もう、なにをいっても気持ちが変わることはないだろう。
俺たちはSKULDAの消えゆく姿をみんなで見送った。
SKULDA、いや、BINGO!!さんと過ごした短い日々を思い出しながら。
SKULDAは[ありがとう!さようなら!]と一言残して完全に消えた。
黒い水溜まりだけは、まだ消えずに残っている。
みんなにかける言葉が見つからない。
というか、自分自身にもどうやって声かけしていいのかわからない。
俺は、見つからないなりに言葉を探しながらチャットの文を書いた。
- JINK
- SKULDAさんは俺とお友達登録している
もし、姿を変えてゲームに戻ってきてもすぐにわかるさ
その時はみんなで迎え入れよう
みんなはこの言葉に[うん]と頷いた。
ありがとう、SKULDAさん。
続く。
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