前回まで、
Resetする?
努力の価値は
1
あの激しい戦いから3日。
チーム⭐︎ダイナ(仮)のみんながJINKのレベルを上げる手伝いをしてくれた。
参加できる人は朝9時から集合し、夜11時までひたすらNPCを倒していく。
経験値はチーム内で分配されるから、効率よくレベルが上がっていった。
ものすごく地味な作業。
でも、リアル友達のGINJI、MOMOKO、SIDは毎日必ず来てくれた。
SIDとGINJIで敵を倒し、傷ついたらMOMOKOが回復魔法を唱える。
俺は少し攻撃をしながらも、基本は横で見てる。
黙っていても経験値が入るから楽なもんさ。
おかげでレベルは一気に40まで戻した。
目標は50だったから少し足りなかったけど、3日間で取り戻せたのは奇跡に近いと思う。
みんなが協力してくれて嬉しかった、それはわかってる。
でも、素直に喜べなかった。
2
7月30日の朝。すでに蝉の鳴き声がうるさい。
今日もみんなと約束している。これで4日目だ。
蒸し暑い外の空気を遮断して、クーラーの効いた自分の部屋で、電源の落ちているパソコンを眺めていた。
ディスプレイに写っている俺は腕を組んで、顔は眉間にシワを寄せて、睨みつけるような表情をしている。
ふと、画面に向かってつぶやく。
「俺には向いていない」
それはいつも行き詰まった時に出てくる“逃げの言葉”。
この言葉を利用して、いろんなことから逃げてきた。
中学の頃、野球部でレギュラー争いに負けた時、
「俺には向いてない、楽しくない」
と呟き、2年の秋に退部した。
それから、その言葉がクセになって、上手くいかないと、「俺には向いてない」と呟いては逃げていた。
勉強も、絵や工作も、ゲームで負けた時も、
「俺には向いてない」と呟けば、心が軽くなる。
だから今まで中途半端で、何事もやり遂げた事がなかった。
両手で頬をバチンと平手で打ち、もう一度ディスプレイを見る。
「いや、今回は続けるんだ!」
パソコンの電源を入れて、マウスでゲームをクリック。
タイトル画面が表示されたと同時に、脳裏にあの光景が浮かんだ。
[貴様はこのゲームが好きか?]
という、NATSUHAの問いかけ。
[ウルサイ!好きなものは好きなんだよ!]
あの時はがむしゃらになってチャットの文章を打っていたからキーボードを叩く力は強かった。
そこで[嫌いだよ]と答えるとNATSUHAの思惑通りになりそうで嫌だったから。
でも、本当のことをさらけ出すなら、
「PVに全然勝てないからつまらない」
といいたかった。
3
なんだか惨めな気持ちになる。
SID、GINJI、SEVENは強いからわかるんだけど、回復がメインのMOMOKOでさえ、PVで勝利している。
DINAだけ、PVでの勝利は0なんだ。
いや、俺だって無策で挑んでいるわけではない。
ネットで情報を集めたり、方法をいろいろと試したり、GINJIやSIDからアドバイスをもらったり、それなりにやることはやっている。
学校から帰ってきたらすぐにパソコンを起動してログインしてるから時間もかけている。
この前、GINJIとプレイ時間比べたら俺の方が50時間も多くてドン引きしてたし。
それだけ、努力してきた。
自信はある。
でも現実はこれだ。
ゲームでは、GINJI、MOMOKO、SIDの方が強い。
期末テストだって永太、カナタ、梢ちゃんの方が圧倒的に点数が高い。
俺も努力しているのに、なぜか結果がついてこない。
世の中は不公平すぎる。
アイドルがテレビで『努力は必ず報われる』といっていた。
そんなの、ウソだ。
努力したって、何も報われない。
頑張ったって、何も報われない。
結局、
「俺には向いてないんだ」
って思った。
あの時、NATSUHAの前では強がっていえなかったけど、今ならハッキリいえる。
「このゲームが嫌いだ」
続く。
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