前回まで
遅刻した日
1
「あのなぁ、お前この時間に登校してくるって何様のつもりだ!」
先生の怒鳴り声が職員室全体に響き渡る。
俺は衝撃波にも似たその怒鳴り声を真正面で受け止めた。
怒られている理由は誰が見てもわかる。なぜなら俺は昨夜オンラインゲームに夢中になって寝坊したからだ。
まだ1、2時間目までに登校すれば罪は軽かったかもしれない。
しかし俺が登校したのは12時で、今は昼休みだ。
そりゃいつも穏やかであまり怒らない先生だって怒るよな。
「いえ…いや…あの……」
俺は俯きつぶやいた。だが遅れた理由が「オンラインゲームに夢中になってました」 なんて口が裂けても言えない。
なんとか理由を考えてやり過ごそうとした時、先生が衝撃的な一言を言ってきた。
「オンラインゲームばかりやってないでしっかり睡眠も取れ!」
先生のその一言はまさに寝耳に水だった。
俺は慌てて先生にきいた。
「先生!!誰からそれをききました」
「大塚から聞いたぞ、『きっとオンラインゲームやってます』って」
カナタのヤロー俺をどこまで陥れれば気が済むんだ。
「まぁ失敗なんて誰でもあることだから、次は気をつけるんだぞ」
「…はい、すみませんでした。」
俺は担任の先生からようやく解放された。
約20分、眠気と昼寝特有の怠さに耐えながら説教を聴いてた俺。自分で褒めても良いのかなと思う。
2
教室に向かったときに少し考えてみたのだが、なぜ人は誰かをイジって笑いをとるのだろうか。
イジリ一言で傷つく人もいれば大丈夫な人もいるが、みんな大丈夫な人達ばかりではないと思う。
他人との交流を皆が遮断し、自分の殻の中に閉じこもる人も多くいるのではないのか?
引きこもりや自殺の原因はまさにイジリが原因で発展したイジメとかではないのか?
「あぁ、考えたら頭が痛くなってきた」
3
午後の授業。午前11時に起きた俺は、授業に集中できるわけでもなく、 疲労と眠気にただ立ち向かっていた。
俺の意思とは関係なく瞼が勝手に下がってくる。
今閉じるのはよくないのに言うことを聞いてくれない俺の瞼。
にしても…先生の授業だってつまんない。まるでお坊さんがお経を唱えてるようにゴニョゴニョと小さい声で喋ってるんだもん。
(ゼンポウコウエンフン? んなもんしらんがな、せめてもう少し大きな声で喋ってくれ)
心の中で呟く。
だが、所詮心の中でつぶやく程度のことしかしない。
そういった言葉はあえて先生に言わない方がいい。
意見を言うと反抗しているみたいになるから悪者扱いされてしまう。
空気読めてないって思われる。
自分の主張とか行動にでないから、 目立つこともなくいつもみんなの中に隠れてしまう。
だから、時々自分に問いかける
(本当にこのままでいいのか…)
と。
考えているうちに、俺の意識はどこかに飛んでいったみたいだ。
なんか心地よい空気に包まれたから…。
4
「……メ…起き……カ……メ」
なんだろうか。何処からかはわからないが、俺を呼ぶ声が 聞こえる気がする。
声は次第に大きくなっていった。
「ハ…メ!……ジ!ハジ…」
大きくなるのに比例して、だんだんとはっきり聞こえてくる。
どこかで聞いたことのある声だ。
「バカハジメ!!」
その一言で、俺はハッと何かに気付いたみたいに起き上がった。
そこは保健室のベッドだった。夕日が保健室の窓から入ってきてスゴく眩しい。
外からは野球部がノックをしている音が聞こえ、廊下からは吹奏楽部のトランペットの音や練習で廊下を走る音も聞こえる。
そうか…俺は放課後まで寝てたのか…
今の状況をやっと理解した俺がいた。
「やっと起きたわねバカハジメ。」
夢の中にまで入り込んできた声の主はカナタだった。腕を組んで仁王立ちしながらベッドの上にいる俺を見下ろしている。
相変わらず厳しい口調は保健室にいる俺に対しても変わらなかった。
「あぁ…昨日徹夜したからな…眠くてしゃあないよ」
俺の言葉にもいつもの張りがない。
いつもの俺らしくない小さな声で話した。
「城戸くんに感謝しなさいよ、ここまで担いで来てくれたんだから。」
「永太が!?わかった後でメールする。」
正直、永太が俺のこと担いで運んでくれたのは信じられなかった。
偏見だけど、勉強できるやつはスポーツは全くダメって固定概念があったから。
それに、永太はいつも世話をやいてくれることはわかっていたが、ここまでやってくれるとは思わなかったんだ。
「ということでさ、今日久々に一緒に帰らない?」
ということってどういうコト?
カナタの発した言葉の意味が、俺にはわからなかった。
小学生や中学生の頃は確かに一緒に帰った時はあった。それが理由で時々友達から嫌味を言われることもあった。多分嫉妬だろうがな。
ただ、俺たちはもう高校生だ。それに気分的なものもあって、
「ゴメン、1人で帰らせてくれ」
その一言だけ伝えた。
そしたらカナタ。俺のことグーで思いっきり殴ってきて。
「もぉーしらない!」
と大声をあげて保健室を飛び出していった。
なんで俺と帰りたかったんだろうか?
眠気とだるさに支配され思考が止まってしまった俺は、それ以上考えることはなかった。
結局1人で下校した。
そして、家に着くなりベッドに倒れこみ、そのまま寝てしまった。
永太にメールすることを忘れたまま。
続く。
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