前回まで、
Resetする?
努力の価値は
4
ログインすると、いつもの始まりの街に立っていた。
この街がいわばゲームのスタート地点。
それはいつも変わらない。ログインした瞬間に洞窟からスタートとかありえないから、いつも始まりの街からのスタート。
そこに待っているのは、いつも通りのメンバーだ。
- GINJI
- おはよう!今日も来たね
- MOMOKO
- 待ってたよー^ ^
- SID
- …2分の遅刻、寝坊だねw
- SEVEN
- まぁ寝坊くらいするであろうw
いつも仕事で朝はいないSEVENさんも今日は合流してくれた。
久々にチーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバー全員が揃った。
俺の気持ちを伝えるには、ちょうどいい。
- JINK
- なぁみんな聞いてくれ
- GINJI
- ん?どした?
文章を打っていた手が止まる。
ディスプレイに映る彼らを見て、迷っているんだと思う。
でも、もう決めたから、勢いに任せて残りの文章を打って思いっきりエンターキーを押した。
- JINK
- チーム⭐︎ダイナ(仮)を解散しよう
って。
5
長い沈黙が続く。
そりゃそうだよね。いきなり解散しようっていわれたらみんなもビックリしちゃうよね。
でも解散しようと伝えれば、俺の気持ちがわかってくれると思っていた。
そしてすんなり話が進むと思っていたんだ。
- MOMOKO
- えっ、もしかして…
沈黙を破ったのはMOMOKOだった。
俺はすぐさま[もう決めたんだ]と返信した。
誰に何をいわれようとも変わらない。
- GINJI
- そうか、わかった
でも教えてくれよ、仲間だろ - JINK
- 仲間でも、今はいえない
GINJIの質問に答えたくなかった。
今はそんな気分じゃないし、ダメな自分を思い出しそうで嫌だったから。
ところが、
- GINJI
- 何言ってるの?
新しいチーム名決めたんだろ?
だから解散して新しい名前にするんだろ?
教えてくれよ、新しいチーム名を
という文章だ。
俺はその文章を読んで結成当初のことを思い出した。
チーム名について良い案が浮かばなかった俺たちは、散々揉めた結果(というか、みんなが俺の案を一方的に反対してたけど)、『チーム⭐︎ダイナ(仮)』として仮の名前にした。
そして良いチーム名が思いついたら解散してつけ直す。
その約束をGINJIは覚えていたんだ。
- JINK
- そうじゃなくて!
俺は、わかってくれない仲間たちに怒りを覚えながら、本当のことをキーボードで打ち込み、エンターキーを押した。
- JINK
- 俺はこのゲームをやめる!
だから、チームを解散する!
6
また、長い沈黙が続いた。
そりゃそうだ、1番張り切っていた俺がいきなりゲームやめるから解散するとかいったからな。
みんなどうやって返信したらいいかとか、なんで話せばいいかとか必死になって考えていたと思う。
- GINJI
- 予想はしてたよ
だけどひとつ教えてほしい - JINK
- なんだよ!
- GINJI
- ゲームをやめる理由を教えてくれ
GINJIの質問に、俺はチャットウィンドウでは収まらないくらいたくさんの文章を書いた。
PVに勝てないこと。
リーダーなのに役立たずが不甲斐ないこと。
空想の世界を救ったって誰も褒めてくれないこと。
現実の世界で生きていた方がよっぽど価値があるということ。
みんな現実逃避しているだけだからさっさと目を覚ましてゲームの世界から抜け出した方がいいということ。
思いの丈を全て吐き出したからだろうか、ゼェゼェと肩で大きく呼吸していた。
興奮していたこともあるだろうが、GINJIからの反撃も怖かったから自然と戦闘体制に入っていたのだろう。
- GINJI
- 気持ちはわかった
なら、お前は現実が嫌になったら死ぬんだな?
7
GINJIからの返信が発端となり、言い合いの喧嘩がはじまった。
- JINK
- なんだよその言い方!
ゲームを続けるのもやめるのも俺の勝手だろうが! - GINJI
- 違う!JINKは勝てないことに駄々をこねているだけだ!
そんなんじゃ一生勝てないままだ! - JINK
- テメェもう一回言ってみろや
- GINJI
- 一 生 勝 て な い
どうだwこれでwwwwwwwww - JINK
- ムカつく、死ねや
- GINJI
- なんだと?!
お互いを罵りあう低レベルな喧嘩だった。
相手を傷つけるためだけの言葉を、わざと選んで使っていた。
この時使っていた文章は暴力に限りなく近いような気がする。
そんな俺とGINJIに呆れたのか、もしくはイラッとしたのかは知らないが、
SEVENさんが2人の間に割って入った。
- SEVEN
- お主ら落ち着け
とあえずパソコンの前で深呼吸せい
SEVENさんの指示通り深呼吸をした。
ゆっくりと大きく息を吸いそして吐く。それを5回ぐらい繰り返したが、俺の怒りは収まっていない。
心臓が脈打つ音がよく聞こえ、手には汗、顔は火照っている。
興奮状態で文章を打とうとしたその時だった。
- SEVEN
- JINK殿、冷静になったであろう君に改めて問う
本当にやめるのかい?
やめるかやめないかの確認みたいな簡単な質問。
だが冷静になったからといって決意は変わらない。
俺はSEVENさんの質問に[はい]と一言だけ打った。
- GINJI
- 勝手にしろ!
もう知らん!
俺に暴言をぶつけ源氏はその場から立ち去った。
SID、MOMOKO、SEVENがGINJIの後を追う。
- SID
- … アンタ本当にこれでいいと思ってるの?
すれ違いざまに放ったSIDの言葉が俺の心に重くのしかかってきた。
いつものSIDとは違う、本音のような気がしたから。
8
気がつくと、周りには俺1人だけになってしまった。
パソコンの前でぶつぶつと独り言をつぶやく。
「 なんだよ、たかがゲームをやめるってだけで、みんなムキになりすぎなんだって」
GINJIがあっさり了承してくれなかったから悪い。
だからスムーズに解散することができなかったんだ。
SID、MOMOKO、SEVENさんもひど過ぎる。
だって今まで共に戦ってきた仲間というより、赤の他人として扱っていた。 俺はそう感じた。
「 やめるのも続けるのも俺の勝手じゃん」
思い出しただけで、怒りが込み上げてきた。
その怒りのおかげで、辞める決意ができたんだ。そこは感謝しておこう。
メニューを開いてチームのアイコンを開く。
一番下の『チーム解散』のアイコンを選んでクリック。
- チームを解散しますか?
いいえ
はい←
チームを解散しますかという確認をスルーし、迷わず『はい』のアイコンを選択。
チャットウィンドウに[チーム⭐︎ダイナ(仮)は解散しました]と表示された。
これで俺は自由だ!
- JINK
- じゃあな!
フィールドのどこかにいるであろうGINJIたちに聞こえるように、わざと叫ぶモードにして文章を打つ。
そしてすぐにログアウトしてゲーム終了。
あっという間にパソコンの待ち受け画面だ。
「 ……これでいいんだ、これで」
そうつぶやくと、俺は迷いを断ち切るように急いでパソコンの電源を切った。
続く。
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