前回まで、
裏ワザ
4
- SEVEN
- 今から裏ワザを教えて進ぜよう!
木陰に座った途端、チャットからSEVENさんのおトク情報が流れてきた。
だって裏ワザだよ。
特定の条件でコマンドを入力したら反則級の強い装備が手に入るとかいうものに決まってるじゃん。
というか、パワーアップできる裏ワザならもっと早くに教えて欲しかった、と心の中でSEVENさんに訴えかけた。
- JINK
- その裏ワザを使ったら強くなれるとかですか?
- SEVEN
- まぁ焦るでないw
今から拙者のいうことをよく聞いて実行するのだ - JINK
- はい!
今の気分は最高潮だ。
なんてたって苦労をせずに力が手に入るんだもの、ウキウキしない理由なんてない。
俺はチャットウィンドウを凝視してSEVENさんの言葉を待つ。
- SEVEN
- いいか、木陰に座ったら、チャットに
しんふ
と入力してスペースキーを5回押した後エンターキー
これで裏ワザは完了だ - JINK
- なんか、割とあっさりしていますね
- SEVEN
- 複雑すぎる裏ワザなんていらないw
これくらいのコマンドでちょうどいいw
SEVENさんのいうことは納得で、確かに複雑すぎるよりはマシかもしれない。
でも、この裏ワザを行って何が起こるかはまだわからない。
でもせっかくSEVENさんが教えてくれた裏ワザ、実行してみる以外ないでしょ。
- JINK
- じゃぁいきますよ
(えーと、しんふって入力してスペースキーを5回押したあとエンターキーっと)
間違えないように、頭の中で何度も確認しながらキーを入力する。
そうして無事に[しんふ ]と表示され、いよいよ裏ワザが発動される。
5
しかし、何も起こらない。
いや、何か変化はあるはずと思い、画面を隅々まで確認したのだが、やっぱり何も変化はない。
念のためステータス画面を開き、数値や装備品にも目を通したのだが、やっぱり何も変化はない。
俺はSEVENさんに[何も変化が起こらないんですけど]と申し訳なさそうにきいた。
するとSEVENさんは、
- SEVEN
- スマヌw間違いだw
それは
『右に90度回すとリーゼントのヤンキーっぽく見える文字』
だったww
と答えた。
SEVENさんの悪ふざけに少しイラッとしながらも、試しに首を傾けながら見てみると、本当にリーゼントのヤンキーっぽく見えて感動した。
って感心している場合じゃなくて、俺は強くなる裏ワザを知りたいの。
そんな俺を嘲笑うかのように、SEVENさんは[次こそ本当のコマンドを教えてるで候]との返事が。
「やっぱり違ったんかい」
とパソコンのディスプレイに向かって叫んだ。
次に指示されたコマンドは[しんふじゃなくて:)]だった。
:)←ってなんかさらに顔文字っぽくなったような気がする。
しんふ←に比べて簡素になった分、何だか信憑性がなくなった気がしたからだ。
- SEVEN
- 今度はあってる!
拙者は嘘をつかぬ!
「いや、さっきのは嘘だったからね」と本日2回目の画面ツッコミ。
埒があかないと思った俺は早速実行することにした。
[:) ]
すると、パソコンの画面がいきなり真っ黒になった。
6
「いや、このタイミングで故障かよ」
突然の出来事で取り乱してしまったが、このブラックアウトが故障ではないと理解するのに時間はかからなかった。
……
真っ黒になったディスプレイの真ん中に、ビー玉程の小さな光がポツンと1つだけ。
その光は、次第に大きくなっていき、やがてディスプレイ全体を埋め尽くした。
そこから浮かび上がってきたのは、広大な草原。
その草原を走っている4人の戦士たち。
1人は剣を、
1人は杖を、
1人は弓を、
もう1人は槍を持っている。
戦士たちが向かう先には、モンスターがいた。
身長の3倍くらいはある、全身エメラルド色の大きなドラゴンだ。
彼らを見つけた途端、いきなり襲いかかってきた。
皆は一斉に立ち止まり、杖を持った戦士が、みんなの先頭に立ち、バリアを張ってドラゴンの突進を跳ね返した。
すかさず、弓の戦士が応戦し、他の2人はドラゴンに突っ込んでいく。
……
パソコンの画面には綺麗なアニメーションが広がっている。
そんな映像を俺は興奮しながら鑑賞していた。
SEVENさんの言っていた裏ワザとは、このゲームのプロモーションビデオを観れることだったみたい。
7
映像が終わり、元のゲーム画面にもどると、すぐさまSEVENさんに報告した。
- JINK
- スゴいですねこの裏ワザ!
まさに素晴らしいARTでした! - SEVEN
- なぜアートだけ英語なのだ?w
- JINK
- それよりも、この映像を発見したら強くなるとか得点ってあるんですか?
- SEVEN
- あるわけなかろうw
これは安全地帯で観ることができる特別な映像ってだけだ - JINK
- じゃあ、なんで教えたんですか?
ムービーはスゴかったですが、それじゃ意味なくないですか? - SEVEN
- 意味が無いわけではない
このムービーは拙者と…
KAHLUAとの思い出だ
KAHLUAというワードが出るたびに、重苦しい空気を感じてしまう。
不思議と画面越しからひしひしと伝わってくるんだ。
SEVENさんとKAHLUAという人物との間に一体なにがあったのか。
とても気になって仕方がなかった。
- JINK
- 一体KAHLUAと何があったんですか
- SEVEN
- ……今は、ただKAHLUAと戦って欲しい
全てが終わったら、拙者から話す
そうチャットに言い残し、SEVENさんは安全地帯を後にした。
俺もSEVENさんの後を追うように安全地帯を出る。
やはり全てを語ってはくれなかったけど、今はそれでいい。
俺は心にそう言い聞かせ、歩みを進めた。
つづく。
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