前回まで、
私の楽しい2時間半
1
私はJINKと共に洞窟に向かっている。
チャットはすることはなく、目の前のNPCをひたすら倒しながら進んでいた。
KAHLUAは洞窟で初心者狩りをしている。
この情報を信じて……。
5ヶ月前の3月だった。
私は、失恋がきっかけでずっとオンラインゲームにハマっていた。
彼、いや今となっては“元彼”との思い出のゲームだったーSky Fliers Onlineー。
元彼の幻影を追うようにずっとパソコンの前に張り付いていた。
いわゆる現実逃避ってやつだよね。
泣きながらプレイしていたから画面なんて霞んで見えてなかったし。
そんな状態だからNPCにさえ勝てない。
もう何が目的でゲームをしているのかさえ、わからない状態。
そんな日々を過ごして一週間。
森の安全地帯で、彼と出会ってしまった。
2
彼はいつも森の安全地帯の木陰に座っていた。
私も少し気になってはいたが、自分から話しかける勇気もなかったので、ずっと素通りしていた。
ところがその日は、
- KAHLUA
- 君も、ひとりかい?
彼から話しかけてきた。
いつもは無視して通り過ぎていたのだが、話しかけられたらまた別。
私は足をとめ、彼の方へ向かった。
- SEVEN
- えぇ、特に仲間もいないので
何か悪いかしら
失恋の反動からか、少し文章に棘があったかもしれない。
でもKAHLUAは優しかった。
- KAHLUA
- いやぁ毎回僕の前をひとりで通り過ぎるから気になってね
- SEVEN
- そんなあなたこそ、なんでいつもそこに座っているのですか?
- KAHLUA
- 夢を、観ていたんだ
何をいっているのかよくわからなかった。
この人は寝ぼけているに違いない。
そう感じて、立ち去ろうとしたそのとき、
[君も観てみるかい]
KALUAにそう誘われたの。
[この木の木陰に入って『しんふ』って入力して5回スペースキーを押してエンターキーを押す]
私はKALUAの言う通りに実行して、[しんふ ]と表示させたんだけど、何も起こらない。
- KALUA
- あっ間違えた!
それは『右に90度回すとリーゼントのヤンキーっぽく見える文字』だった - SEVEN
- 何やらせてるんですか!
- KAHLUA
- ビックリしたしょw
何も起こらなかったからww
本当は:)と入力してスペースを5回押してエンターキー
私は気を取り直して『:) 』と入力した。
3
数分後、SEVENはKAHLUAと共に、裏ワザの映像について語っていた。
[ここがスゴかった]
[あの場面は感動した]
と、まるで昔からの知り合いみたいにチャットがはずんでいた。
- KAHLUA
- それじゃあさ、今度一緒に裏ワザを観に行こうよ
- SEVEN
- 他にもあるんですか
- KAHLUA
- 噂によると全ての安全地帯で観れるらしいよ
しかもすべて違うムービーらしい
僕はそれを制覇しよと思うんだ
君もついていくかい? - SEVEN
- はい!
KAHLUAの言葉に即答した。
素早過ぎる返答に、引いてしまったかなと後悔。
でも私は、KAHLUAのことをもっと知りたかったから。
ゲームのチャットでこんなに楽しく盛り上がった人、他にいなかったから。
だから私はKAHLUAと一緒に安全地帯を周りたい。
[したらついておいで]とKAHLUAに導かれ、私は後ろをついて行った。
4
レベルの低かった私は、KAHLUAにサポートを受けながら進んだ。
敵に倒されては復活、倒されては復活の繰り返しだった。
そのたびに[ごめんなさい]と謝った。
でも、KAHLUAは怒ることもせず、[頑張って!次でレベル上がるよ]と励ましてくれた。
こうして、何日もかけてたくさんの安全地帯を周り、そこで裏ワザのムービーを2人で観る。
草原、砂漠、海、洞窟…
KAHLUAがいつもログインしている時間は午後8時半から11時。
2時間半と短い時間だけど、私にとってはとても楽しい時間。
KAHLUAとゲームをしている時間は全てを忘れることができるから。
つづく。
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