前回まで、
疵無き玉
1
居酒屋でのできごとがきっかけで、私とセンパイはさらに仲良くなった気がする。
会社であった時も、
「今日、仕事終わったらすぐにログインな」
「りょーかいです」
と緒方センパイとの会話が多くなってたからだと思う。
会話はほぼオンラインゲームの話題ばかりだけど、それでも私は楽しかった。
- KAHLUA
- 今日は海の安全地帯にいくぞ
- SEVEN
- はい、センパイ!
- KAHLUA
- オンラインゲームでは敬語使わなくてもいいんだそ
- SEVEN
- いえ、センパイはセンパイですからw
楽しいことも、つらいことも、隣には必ず緒方センパイがいた。
PVで私が負けて悔しいときも、会社の仕事で失敗しても、いつもセンパイが支えてくれた。
そんなある日、
「おはよう、どうしたのそんなに顔赤くして。熱でもあるのかい」
「い、い、いえ、な、な、なんでもありません」
長い時間を過ごすとともに、私はセンパイを意識するようになってた。
今まで、奈々にとって緒方とは『頼りになるセンパイ』程度しか思っていなかった。
だけど一緒にゲームをしているうちに無意識に込み上げる感情があった。
(私、もっとセンパイの近くにいたい)
2
「それ、緒方さんのこと好きなんだね」
仲のいい女の先輩に相談すると、そのように帰ってきた。
正直、私はまだ緒方センパイが好きかどうかはわからず、心の中は曇り空のようにモヤモヤとしていた。
「あの、正直まだよくわかってなくて…」
「ううん、それ絶対恋してるから、絶対!」
「はぁ……」
私は意見を変えてくれない先輩にただ愛想笑いしか出来なかった。
「でもね、水をさすようで悪いんだけど、緒方さんと付き合うのは難しいかもよ、あの人完璧主義なところあるからね」
「えっ」
目を丸くし、驚いていた私に畳み掛けるように先輩は説明した。
仕事は全て完璧に片付けることから周りからそう呼ばれていること。
失敗してないみたいで課長がかなり評価していたこと。
などを語ってくれた。
「緒方さんは他人にもスゴく優しい人よ。
でもね、そういう人って自分には鬼の様に厳しいの。だから完璧に近くなれるんだけど……失敗したら自分をいじめる。
一度自分をいじめたら、ずっと止まらなくなってしまう。 傷ついたレコードが何度も同じ旋律を繰り返すように……ね」
先輩は表情を曇らせながらそういった。
つられて私の表情もくらい様子になる。
そんな私に気を使ったのか、先輩は、
「まぁ私の経験則だからきにしないで」
とフォローしてくれた。
3
ある日のこと。
「緒方、ちょっといいか」
「は、はい」
私がデスクで仕事をしていると、緒方センパイが部長に呼び出されていた。
その部長は眉間にシワをよせ、イライラした表情を隠していなかった。
その顔はまさしく、これからお叱りをするという合図に等しい。
センパイが部長のデスクに到着するなり、突然大声で、
「お前、何考えてんだよ!」
の一言から部長の説教がはじまった。
遠くにいる私でも、恐ろしく感じる部長のありがたい言葉を、センパイは真正面で受け止めている。
雷が落ちるたびに「すみません」と頭を下げるセンパイを見て、なんだか少し切ない気持ちになる。
約10分のお叱りが終わり、仕事にもどる緒方センパイの気持ちは沈み込んでいるように見える。
そのままフラッと部屋から出て行ったので、私もセンパイの後を追うことにした。
つづく。
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