前回まで、
蒼鎧と鎖槍
4
その後KAHLUAは、何度も遠距離から攻撃してくる。
俺はそれを回避しながら徐々にKAHLUAとの距離を詰める。
途中、何発か当たったがそんなの関係ない。
チェーンを使っての遠距離攻撃は意外にも威力はなく、致命傷になるほどのダメージは負わない。
KAHLUAの繰り出す攻撃はビックリするほど単調で、数発はもらうものの簡単に回避できる。
そうしている間にいつの間にか攻撃の届く範囲まで近づいていた。
- JINK
- そこだ!
JINKは剣を大きく振りかぶり、KAHLUAめがけて振 落とす。
しかしKAHLUAはびくともしない。体力も10しか減ってない。
- KAHLUA
- 鎧で防御力を上げているから、そんな攻撃など通用しない
大振りで大きな隙ができたJINKを槍で刺し、そのまま穂を飛ばし画面端まで押されてしまった。
遠距離状態になり、振り出しに戻るだ。
5
「このままじゃ、遠距離からチェーンランスでじわじわと体力を削られてしまう……それなら」
俺はコントローラを握りしめて、覚悟を決める。
いよいよ『力の解放』を使う時だと。
「よし!」
手際よくスキルを選択した。JINKは虹色のオーラを放った。
- KAHLUA
- 力の解放か
KAHLUAは全てを悟ったようにそう呟いた。
俺はチャットに[いくぞ]と打ち、KAHLUAに向かってノーガードで突っ込んでいく。
それに合わせてKAHLUAは槍をJINKに向け、穂を発射した。
JINKは発射された穂をするりと避けて、猛ダッシュし、そのまま大剣をKAHLUAに突き刺した。
6
剣はKAHLUAの頑丈な鎧を貫通し、残り体力を13まで一気に減らすことができた。
「これが、力の解放のチカラ」
興奮というか、驚いているというか、ビックリして、なんかよくわからない独り言を呟く。
たった1突きしただけなのに、ほぼ一撃必殺級の威力。
とてもレベル差が60近くある(俺の方が下)相手と戦っている感じではない。
逆転の要というのは間違いではないけど、こんなのゲームバランスが崩壊して大変なことになると感じた。
「あまり長く近くにいたら反撃されてしまう」
JINKは慌てて剣を抜き、KAHLUAと少し距離をとった。
会心の一撃を与えたものの、JINKも力の解放の副作用で体力が減らされ、残りはわずか26だ。
しかしカウントダウンは終わらない。ただ突っ立っているだけでも体力は減っている。
いつもなら絶望していたこの状況でも、今日は違う。
今まではレベルや技術の差でどうしても勝てなかった。
そしてDINAは殺されてしまった。俺が未熟なばかりに、力の解放がなかったばかりに勝つことができなかったんだ。
でも、今日はどうだろう。
KAHLUAを追い込んでいる。あと一撃でもダメージを与えれば、勝てるところまできている。
元々KAHLUAの動きは遅く、攻撃も単調なものばかり。
槍の突きと、穂を飛ばすチェーンランス攻撃しか出していない。
俺が初心者だからきっと舐めてかかっているに違いない。
そこが今回のウィークポイントだと確信している。
「やっと、勝てる」
コントローラを持つ手が自然と汗ばんできた。
心臓が脈打つ鼓動がはっきりと認識できるくらい大きくなっている。
呼吸はハッハッと浅く早くなっている。過呼吸気味かもしれない。
「クソッ、落ち着けよ俺」
俺はコントローラーを置き、急いで汗ばんだ両手をズボンで拭く。
そして深呼吸をしたあと、両手で頬をパチンと勢いよく叩いて気合いを入れた。
- KAHLUA
- どうでもいいけど、お前余裕あるなw
パソコンの画面に目をやると、KAHLUAからのチャットが表示されていた。
- JINK
- KAHLUAこそチャットできる余裕があるんだw
- KAHLUA
- いやいやw俺は忠告をしているまでだよw
- JINK
- 負け惜しみかw
- KAHLUA
- いや、最後に負けるのはお前だよw
力の解放によって負けるのさw - JINK
- なんだと!?
つづく。
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