前回まで、
Again Redo Time
1
[あっ、気づきましたか]
ナースのチャットでJINKはベッドから起き上がった。
見慣れた場所は洞窟ではない。
久々過ぎて『バックWP』という応急処置アイテムを持っていなかったために、病院に運ばれたのだ。
ナースに出口まで案内されて、[おだいじに]という文章とともに始まりの街に放たれる。
パソコンのディスプレイを俺はボォーっと眺めていた。
KAHLUAに負けたことがショックで何も考えられない。
ただ、心の奥がギューっと絞られるように苦しくて、目からは熱いものが溢れる。
コントローラを濡らしてしまったけど、構わない。
KAHLUAとの敗北がキッカケで、心の奥底にしまい込んでいた想いが堰を切ったように流れてきたから、涙を止めることなんて、できない。
PVに勝てない、中途半端、役立たず、不甲斐なさ。
しまい込んでいたのは、どれも自分の嫌な部分だ。
そしてまた、俺は俺を責める。
「何をやってもダメなんだ」と。
2
テレビをつければ、俺と同年代の人間が超売れっ子の俳優をやっていた。
演技に定評があり、16歳にしてドラマの主演も果たしている。
他にも、オリンピックの代表選手だったり、クイズ番組で難問をいとも簡単に答えていたり、歌手デビューをしていきなりミリオンセラーを達成したり。
そんな素晴らしくスゴいやつがいっぱいいる。
みんな同世代だから、俺は嫉妬し、生まれた年をも恨んでしまう。
でも同じ世代だからこそ、俺自身もいつかそのスゴい人の仲間入りをしたかった。
なんでもいいから成し遂げることができれば、スゴい人に近づけると思っていた。
でも現実は違った。理想とは真逆だった。
勉強、部活、オンラインゲーム、今まで全てが中途半端。
俺の歩んでいる道はテレビの向こうで輝いている同年代とは全く逆。
学校ではバカにされ、オンラインゲームでは全戦全敗。
光、栄光、活躍とは遥か遠い位置にいるような気がしている。
「……何やってるんだろ、俺」
泣いてスッキリした後に出た言葉だけど、前向きになんかなれない。
ふぅーと大きなため息を吐くと、なんだか気持ちが軽くなったような気がした。
俺は涙で濡れたコントローラを机の上に置き、ベッドに思いっきりダイブした。
3
枕に顔をうずめ、KAHLUAとのPVを振り返る。
目を瞑ると脳裏に戦いの風景が浮かぶ。
あの時、残り体力を10ポイントくらいまで追い込むことができた。
あと一撃、たった一撃だけでも当たっていれば俺の初勝利だった。
思い出すのは、脳死で何度も振り回した記憶しかない。
「あと一撃、もしあの時近づいて回転斬り大砲を発動していれば、当たったんじゃね……あっ!」
俺はハッと我にかえり、パソコンのディスプレイを眺める。
自分の発言に驚き、反応するように心臓の鼓動が早くなる。
「……そうだよ」
何かを思い出したかのように一目散にパソコンに駆け寄った。
「至近距離の回転斬り大砲は、どんなにレベルが高い相手でも避けるのは難しい、大剣は失うけど、全然当てることができた」
なんだか不思議な気分になった。
戦っている最中には考えられなかった作戦が、用意されていたのかのように次々と思い浮かんでくるからだ。
至近距離の回転斬り大砲。
遠距離からのハンドガン。
継続するべきだったチリも積もれるヒット&アウェイ作戦。
どれもすべて、後のまつり。
生まれてくるのは後悔の念だ。
冷静になって戦法を考えていれば、間違いなくKAHLUAに勝てていた。
しかし、焦りとKAHLUAの言葉(力の解放によって負ける)に翻弄されて、本来の自分を見失っていた。
(……悔しい)
悔しさに支配されるのに時間は要らなかった。
初勝利は確かに自分の目の前にあったのだから。
(もう一度、もう一度だ!)
キーボードを取り出し、一心不乱に文章を打ち始める。
KAHLUAはまだ洞窟にいるはず、だから今から行けばまだ間に合うはず。
俺の心は、KAHLUAとの再戦に燃えていた。
次は絶対に勝つ、次は絶対に勝つ、次は絶対に勝つ、と何度も頭の中で繰り返しながら。
- JINK
- KAHLUA!次は絶対勝つから待っていろ!
つづく。
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