前回まで、
never give up
1
俺はKAHLUAとの再戦を挑むため、洞窟まで全力で走った。
KAHLUAがいつまでも洞窟にいるとは限らないし、ログアウトもするかもしれない。
だから1分1秒も無駄にはできない。
「なるべく早く辿り着かなきゃ。」と焦る気持ちが独り言となって出てくる。
道のりにあるトラップやNPCはもう大丈夫。
一度通った道だから、ほとんどは回避できる。
さっきはSEVENさんと二人だったから余裕だったけど、一人だとさすがにキツい。
体力はNPCの攻撃で瞬く間になくなっていく。
「クッ、キツイな……」
アイテムの薬草を体大量に使い込み、なんとか体力を維持しながら前へ進む。
目指すはKAHLUAとの再戦。俺を支えているのはこの気持ちだけだ。
2
- KAHLUA
- どうしても避けないなら、倒すまで!
洞窟に入ると、すぐにKAHLUAのチャットが表示された。
その文からSEVENさんがPVを挑まれていることか容易に想像できた。
ディスプレイの端にSEVENさんとKAHLUAが向かい合っている。
(今ならまだ、間に合うかも、)
俺はJINKを全力疾走させ、SEVENさんを後ろから突き飛ばした。
- KAHLUA
- なに?!
KAHLUAのチャットが表示されてすぐにPV準備画面に移行した。
やっぱり、SEVENさんにPVを挑むところだったんだ。そうはさせない。
- JINK
- もう一度勝負だ!
KAHLUA
3
数分後。
ディスプレイには仰向けで倒れているJINKの無惨な姿があった。
威勢よく勝負に挑んだのはいいものの、猪突猛進すぎてあっさりと負けてしまった。
攻撃が単調すぎたのだ。
次はもう少し慎重にいってみよう。そう心で呟きながら、コントローラをガチャし、早く立ち上がらないかと試みる。
[お前は俺に勝てるはずがない]とKAHLUAから冷たい言葉であしらわれたけど、なんにも痛くはない。
『お前にできるはずがない』とか『どうせ無理』といった言葉は、今まで何度も何度も耳にしたから慣れている。
- JINK
- いやまだだ!もう一度勝負だKAHLUA!
俺は闘志を燃やしている。なぜならもう少しで勝てるかもしれないからだ。
あと一歩。
あと一歩のところで勝利に届かなかったのは、真正面のみの攻撃に終始してたからだと思う。
次はもう少し、緩急つけた攻め方で挑んでみる。
[何度やっても結果は同じだってわからないのか]
とKAHLUAにチャットで一蹴されたけど、そんなの関係ない。
- JINK
- 新たに戦法を思いついたんだよ!
次はそれを試して勝ってやるんだ! - KAHLUA
- なんだと
確かに結果は同じ[負け]かもしれないけど、内容は1度目、2度目とは違うから、『次はこういう戦略でいこう』といった作戦を練ることができる。
何度でも、何度でも立ち上がる。
4
再々選したが、やっぱり倒れているのはJINKだった。
今度は慎重に行き過ぎて、攻めきれずに負けた。
KAHLUAをチャットで引き止め、再びPVを申し込む。
そんなことが何度も繰り返し行われ、気づいた時は6度目の再戦になっていた。
あまりにもしつこくて、KAHLUAは恐怖を覚えたのかもしれない。
チャットでは、
- KAHLUA
- なんだよお前
負けが怖くないのか?!
ときいてきた。文面からも信じられないという様子が伺える。
だが俺は迷わず答えた。
[負けて当たり前の世界だったから、いま勝ちに近づきつつある]と。
そう、俺は今までの考えが間違っていたのかもしれない。
最強、天才、完璧はどれも天性の才能だと思っていた。
だからセンスのある人は何かをしても完璧だし、勝負事も強いのだと思っていた。
でも現実は違う。
誰もが最初から完璧な人はいない。
最初から、最強でもない。
みんな俺の見えないところで数多くの敗北、失敗、挫折を経験し、それを活かして前進している。
だから完璧に近くなれると思ったんだ。
5
6回目の再戦。
今までの学びをすべて集結し、完璧に近い立ち回りができた。
力の解放は最後の追い込みに使うために温存し、細かい体力の削りはチリも積もれるhit & away作戦で。
単調なチェーンランスの攻撃はスイスイ避け、もうどんな攻撃が来たって当たらない。
そしてついに、KAHLUAの体力を0にした。
初めてのPVで勝利したのだ。
パソコンのディスプレイには『JINK WIN』とキラキラした文字で祝福している。
俺は嬉しさのあまり右拳を高々と突き上げて「ヨッシャー!」と歓喜の雄叫びをあげた。
時刻は夜11時を回っていたがお構いなし、人目は気にしてなかった。
「俺でも勝てる、俺でも勝てる」
リザルト画面を見て、ニヤニヤしながらつぶやいていた。
興奮からか息が荒くなっている。肩を思いっきり上下に揺らしながらゼェーゼェーと大きく呼吸していた。
画面が切り替わり、元の洞窟に戻ると、そこにKAHLUAはいなかった。
SEVENさんだけが、その場に残っていたのだ。
つづく。
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