【第80回】空想戦記 -Sky Fliers Online-

前回まで、

第79回 空想戦記 -Sky Fliers Online-

never give up

1

俺はKAHLUAとの再戦を挑むため、洞窟まで全力で走った。

KAHLUAがいつまでも洞窟にいるとは限らないし、ログアウトもするかもしれない。

だから1分1秒も無駄にはできない。

「なるべく早く辿り着かなきゃ。」と焦る気持ちが独り言となって出てくる。

道のりにあるトラップやNPCはもう大丈夫。

一度通った道だから、ほとんどは回避できる。

さっきはSEVENさんと二人だったから余裕だったけど、一人だとさすがにキツい。

体力はNPCの攻撃で瞬く間になくなっていく。

「クッ、キツイな……」

アイテムの薬草を体大量に使い込み、なんとか体力を維持しながら前へ進む。

目指すはKAHLUAとの再戦。俺を支えているのはこの気持ちだけだ。

2

KAHLUA
どうしても避けないなら、倒すまで!

洞窟に入ると、すぐにKAHLUAのチャットが表示された。

その文からSEVENさんがPVを挑まれていることか容易に想像できた。

ディスプレイの端にSEVENさんとKAHLUAが向かい合っている。

(今ならまだ、間に合うかも、)

俺はJINKを全力疾走させ、SEVENさんを後ろから突き飛ばした。

KAHLUA
なに?!

KAHLUAのチャットが表示されてすぐにPV準備画面に移行した。

やっぱり、SEVENさんにPVを挑むところだったんだ。そうはさせない。

JINK
もう一度勝負だ!
KAHLUA

3

数分後。

ディスプレイには仰向けで倒れているJINKの無惨な姿があった。

威勢よく勝負に挑んだのはいいものの、猪突猛進すぎてあっさりと負けてしまった。

攻撃が単調すぎたのだ。

次はもう少し慎重にいってみよう。そう心で呟きながら、コントローラをガチャし、早く立ち上がらないかと試みる。

[お前は俺に勝てるはずがない]とKAHLUAから冷たい言葉であしらわれたけど、なんにも痛くはない。

『お前にできるはずがない』とか『どうせ無理』といった言葉は、今まで何度も何度も耳にしたから慣れている。

JINK
いやまだだ!もう一度勝負だKAHLUA!

俺は闘志を燃やしている。なぜならもう少しで勝てるかもしれないからだ。

あと一歩。

あと一歩のところで勝利に届かなかったのは、真正面のみの攻撃に終始してたからだと思う。

次はもう少し、緩急つけた攻め方で挑んでみる。

[何度やっても結果は同じだってわからないのか]

とKAHLUAにチャットで一蹴されたけど、そんなの関係ない。

JINK
新たに戦法を思いついたんだよ!
次はそれを試して勝ってやるんだ!
KAHLUA
なんだと

確かに結果は同じ[負け]かもしれないけど、内容は1度目、2度目とは違うから、『次はこういう戦略でいこう』といった作戦を練ることができる。

何度でも、何度でも立ち上がる。

再々選したが、やっぱり倒れているのはJINKだった。

今度は慎重に行き過ぎて、攻めきれずに負けた。

KAHLUAをチャットで引き止め、再びPVを申し込む。

そんなことが何度も繰り返し行われ、気づいた時は6度目の再戦になっていた。

あまりにもしつこくて、KAHLUAは恐怖を覚えたのかもしれない。

チャットでは、

KAHLUA
なんだよお前
負けが怖くないのか?!

ときいてきた。文面からも信じられないという様子が伺える。

だが俺は迷わず答えた。

[負けて当たり前の世界だったから、いま勝ちに近づきつつある]と。

そう、俺は今までの考えが間違っていたのかもしれない。

最強、天才、完璧はどれも天性の才能だと思っていた。

だからセンスのある人は何かをしても完璧だし、勝負事も強いのだと思っていた。

でも現実は違う。

誰もが最初から完璧な人はいない。

最初から、最強でもない。

みんな俺の見えないところで数多くの敗北、失敗、挫折を経験し、それを活かして前進している。

だから完璧に近くなれると思ったんだ。

6回目の再戦。

今までの学びをすべて集結し、完璧に近い立ち回りができた。

力の解放は最後の追い込みに使うために温存し、細かい体力の削りはチリも積もれるhit & away作戦で。

単調なチェーンランスの攻撃はスイスイ避け、もうどんな攻撃が来たって当たらない。

そしてついに、KAHLUAの体力を0にした。

初めてのPVで勝利したのだ。

パソコンのディスプレイには『JINK WIN』とキラキラした文字で祝福している。

俺は嬉しさのあまり右拳を高々と突き上げて「ヨッシャー!」と歓喜の雄叫びをあげた。

時刻は夜11時を回っていたがお構いなし、人目は気にしてなかった。

「俺でも勝てる、俺でも勝てる」

リザルト画面を見て、ニヤニヤしながらつぶやいていた。

興奮からか息が荒くなっている。肩を思いっきり上下に揺らしながらゼェーゼェーと大きく呼吸していた。

画面が切り替わり、元の洞窟に戻ると、そこにKAHLUAはいなかった。

SEVENさんだけが、その場に残っていたのだ。

つづく。

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ムツキ
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いつでもそこにいるブロガーを目指してる30代農家。 何でもアリの雑記ブログやケータイ小説などを書いてます。