前回まで、
初めてのPV
1
暫く雑魚敵と戦っているのだが、バカな俺でも少し違和感を感じてきたのだ。
それは、俺の後ろを付いてくる一人のプレイヤーだ。
浴衣みたいな服装で靴は下駄だ。なんとなく銀色みたいな魂みたいな物語の主人公にも見えなくもない。
いやいや、これは金髪だから全然関係ない。よく祭の時に遭遇する浴衣男子をイメージしたのだろう。
敵を倒すこともなく、まるで俺のことを尾行するかのように、ずっと後を付いてくるから、なんだか気持ち悪い。
試しに進むのをやめて立ち止まって見たのだが、やはり浴衣男子も立ち止まった。
馬鹿にしているのかと思い、頭にきた俺は「尾行浴衣男子」にPVを仕掛けることにした。
今の俺の実力だと倒せると、なんとなく自信があったからだ。
「絶対に倒してやるからな!」
画面に向かって叫びながら、PVの準備をした
ちなみにPVはメニュー欄の『PV』のアイコンを選択し、マウスポインタを他のプレイヤーに合わせてクリックするだけ。
「いざ勝負!」
狙いは尾行浴衣男子。俺は勢いよくポインタを移動させた。
ところが勢いをつけすぎてしまい、PV指名ポインタは尾行浴衣男子を通り越して、別のプレイヤーをクリックしてしまった。
2
慌ててキャンセルボタンを押そうとしたが、相手はPVを了承してしまった。
こうなった以上はもはやPVから逃げることはできない。
「やるしかないな…」
俺は覚悟を決めた。
PVの練習なら師匠と何回もした。
それに草原に来るプレイヤーだ。レベルはそんなに高くはないだろうと、勝手に決めつけていた。
PV開始前に対戦相手のステータスが表示された。
名前はSIDでレベルは62。
「ろ、ろくじゅうに!?俺まだレベル12だぜ?」
得意武器は魔法杖で、攻撃魔法を駆使して戦うプレイヤーらしい。
SIDの見た目はおとぎ話に出てくる魔法使いのような格好だ。赤いローブと三角帽を身につけ、右手には得意武器である魔法杖を持っている。
俺とSIDはPVの対戦専用ステージに移された。
体力はDINAが120、SIDは300。
うん、2倍以上あるよね。レベルの違いを痛感しているよ。
俺は少々、いや物凄い不安を感じながらもはじめての実践PVはスタートした。
3
俺は最初から全力で、相手の懐に潜り込もうとしたが、SIDが放つ火の玉攻撃でなかなか近づくことができない。
連続して攻撃してくるので、その場回避を使うが全て避けることが難しい。4回に1回は当たってしまう。
しかも一発もらうだけで体力が一気に10も下がってしまうから困りもの。
軽めの攻撃でこのダメージだから、大技を受けると耐えられない。
「クソッ、なんでこんなに強いんだよコイツ!」
当然だ。レベルが50も離れていたら子どもと大人が喧嘩するようなものだ。太刀打ち出来るわけがない。
SIDの攻撃は容赦なく、俺は防戦一方だった。何も太刀打ちできずに体力だけが削れていく。
80、70、60、50と死のカウントダウンのようにカウントは減り、ついに残り体力が20のなってしまった。
もはや絶体絶命だ。
でもSIDのHPはまだ300のままだ。どうにかして一発ダメージを与えて一矢報いたい。
どうすれば…
- SID
- …なんだ、もう終わりか?
SIDは攻撃をやめて呆然と立っているDINAの近くに寄ってきた。
4
「クソッ、コイツよくチャットできる余裕あるよな」
俺は装備を大剣からハンドガンに変え、SID目掛けて撃った。
だがその場回避を巧みに使い、銃弾は全て避けられてしまった。
- SID
- …大したことないな
なんかバカにされているような気がする。
だが対抗策が見つからなかたので、コントローラからキーボードに手を移し替えて、
- DINA
- 殺るなら一撃で決めてくれ…
対抗できてないけど、そんなセリフを書いた自分がカッコいいと思った。
- SID
- …何か言い残すことはないか
そんなノリが伝わったのか、相手もキャラになりきってる。
- DINA
- 言い残すこと…
俺は考えた。考えに考え抜いた。ここでカッコよく決めておけば俺の印象を強く残せると思ったからだ。
- SID
- 早くしろ!殺すぞ!
- DINA
- 焦るなっっっって。
おっと、あまり相手を待たせてしまってはダメだ。慌てすぎてTのキーを連打してしまった。
焦っているのは俺の方。
俺は右脳、左脳全部使って考えた言葉を使うことにした。
- DINA
- あるに決まってらぁぁぁ!
食らえッ!! 俺の全力を込めた最後の一言だ。
- DINA
- 地獄で舞ってるからな!!!
- SID
- …漢字間違ってるし
えっ? ギャアアアアァァァァァァァ!!
相手を笑わせて隙を作るつもりが、俺が精神的ダメージを受けてしまった。
スッゴク恥ずかしい。 羞恥心って奴だよ。
- SID
- …消えな
SIDは近距離の魔法『ソウルバーン』を唱えた。
その後パソコンの画面には、『GAME SET!!』の文字が表示された。
だが俺は両手で顔を覆っていたのでリザルト画面を確認しなかった。
恥ずかしくって画面を直視できなかったのだ。
続く。
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