【第58回】空想戦記 -Sky Fliers Online-

前回まで、

第57回 空想戦記 -Sky Fliers Online-

Resetする?

Scrap & build

泣いている場合ではなかった。

どんなに涙を流しても、DINAは元に戻らない。

その事実は変わることはないから。

涙いっぱいの目を手で拭い、パソコンのディスプレイをみる。

スクリーンセーバーに切り替わっていた画面には文字が流れている。

“頑張れー”とか、“青春サイコー”とか、“Ahoooooooooooooo”とか。

特に意味のない文章が某ニコニコする動画のように流れてくる。

そんな中、1つの文章に思わず目を奪われてしまった。

“待っている人がいる”

いつもの俺だったら確実にスルーしているこの文章。

だが今回は違っていた。

今も戦っていると思うチーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーたち。

彼らの苦戦している姿が思い浮かんだ。

「…何もできないけど、せめて薬草だけでも」

独り言をブツブツと呟きながら、スクリーンセーバーを解除し、ゲームを起動した。

3

ログインし、キャラクター選択画面を眺めても、DINAはいない。

KILL°°BEに削除されたということをあらためて理解することになった。

だが、ここで落ち込んでいても仕方がない。

俺は新規作成をクリックした。

つい数ヶ月前にDINAを作成しているので、意外とすんなり進ことができた。

DINAを作った時は本当に手探り状態だったから、スラスラとマウスを動かす俺がなんだか別人みたいだった。

なんてことを考えているうちに、キャラクターは完成。

RPGの主人公がよく着ているような青い鎧。

髪の色は茶髪。

得意武器は前回と同じ大剣。

「なんかDINAよりカッコいいかも」

自惚ってわけじゃないけど、ゲームのキャラクターを作る才能あるんじゃないのかな、ってなんとなく感じた。

後は名前だけ。

でも、もう決まっている。

たまたま英和辞書をパラパラめくり、フィーリングで決めた。

名前の入力欄にポインタを合わせ1字ずつ思いを込めて入力。

入力した名前は、“JINK”。

これに決めた。

「後は、通りますように!」

祈りを込めてエンターキーを押す。

JINK、いい名前ですね

無事登録完了だ。

3

急いで砂漠に戻ると、そこには異様な光景が広まっていた。

チーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーが心配そうに1人のキャラクターを囲んでいたからだ。

左の腕が肩からなくなっているキャラクターが、仰向けになって倒れている。

目の錯覚か、涙で霞んでいるだけか、体が少し薄くなっているようにも見える。

俺は急いで駆け寄った。

JINK
大丈夫ですか!
SKULDA
ありがとう、また会えて嬉しいよDINA君!

DINAの名前を表示されて驚いた。

JINK
なんでその名前を
SKULDA
俺は元BINGO!!だからね!

慌ててお友達登録を開くと、チーム⭐︎ダイナ(仮)のメンバーの他に、SKULDAが登録されていた。

SKULDA
KILL°°BEはこの手で倒した
killiNg saberを使って削除したからもう彼に怯えることはない

KILL°°BEと激しい死闘を繰り広げたのだろう。

失った左腕や血のような黒い水溜まりがそれを物語っている。

SKULDA
DINA君、今日でお別れだ!

4

(えっ、どういうこと?)

唐突すぎて、思考が追いつかないんですけど。

BINGO!!さんは実はSKULDAで、KILL°°BEと死闘を繰り広げて、今消えかかっていて、もうよくわかんないよ。

[BINGO!!さん、いやSKULDAさん、また共にゲームしてくれよ!戻ってきてよ俺みたいに!]

無我夢中でキーボードを叩いた。チャットで引き止めようと必死だった。

SKULDA
俺の目的はKILL°°BEを倒すこと!
目的を果たしたからもう思い残すことはない!
JINK
チーム⭐︎ダイナ(仮)に入ったのもKILL°°BEを倒すためだったんですか?
SKULDA
そうだ!
最初からそのつもりだ!

確かに、すぐにKILL°°BEを知っているかと俺にきいてきた。

訳もわからず(というか当時はまだTeam Xもよくわかってなかった)知らないっていったけど、きっと当時から倒そうとしていたんだろう。

でもさ、

BINGO!!さんがいると周りも明るくなったし、

困った時はいつでもサポートしてくれた。

BINGO!!さんもいてこそのチーム⭐︎ダイナ(仮)だろう。

こんな唐突に[今日でお別れだ]なんていわれると寂しいよ。

JINK
どうにか、戻ってきて

今日は視界がよく霞む。

キーボードを見ないと文章を書けないから一文作るのも一苦労。

SKULDA
DINA君、『人を呪わば穴二つ』という諺がある!
KILL°°BEに負の感情を抱いていた俺が消えるのはこれもまた必然!
後悔は、ないよ!

5

SKULDAの意志は固い。

もう、なにをいっても気持ちが変わることはないだろう。

俺たちはSKULDAの消えゆく姿をみんなで見送った。

SKULDA、いや、BINGO!!さんと過ごした短い日々を思い出しながら。

SKULDAは[ありがとう!さようなら!]と一言残して完全に消えた。

黒い水溜まりだけは、まだ消えずに残っている。

みんなにかける言葉が見つからない。

というか、自分自身にもどうやって声かけしていいのかわからない。

俺は、見つからないなりに言葉を探しながらチャットの文を書いた。

JINK
SKULDAさんは俺とお友達登録している
もし、姿を変えてゲームに戻ってきてもすぐにわかるさ

その時はみんなで迎え入れよう

みんなはこの言葉に[うん]と頷いた。

ありがとう、SKULDAさん。

続く。

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ムツキ
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いつでもそこにいるブロガーを目指してる30代農家。 何でもアリの雑記ブログやケータイ小説などを書いてます。