【第61回】空想戦記 -Sky Fliers Online- 

前回まで、

第60回 空想戦記 -Sky Fliers Online-

現実への逃避

1

8月4日の昼。

日差しがいつもより増して強く感じる。

オンラインゲームと決別してから、俺の生活は180度変わった。

といっても、家に引きこもる生活はかわっていない。

昼に起きて、夏休みの宿題を少しして、ワイドショーを観ながらぐうたらして過ごす日々。

なにもせず、オンラインゲーム漬けの生活が、今では遠い昔のように感じる。

といっても、あの日からまだ5日しか経っていない。

でももう8月なんだ。時間は決して止まってはくれない。

にも関わらず、俺はオンラインゲームという無意味な遊びにハマってしまって、高校生活の約1ヶ月半を無駄にしてしまった。

「久々に外出てみるか」

部屋着から着替えて勢いよく部屋から飛び出した。

5日ぶりの外出だった。

2

外は雲ひとつない青空。

出かけるには最高の日だろう。

ただ気温が30℃越えの真夏日がなければね。

黙って立っているだけでも額からじんわりと汗が流れてくるから、まるでサウナの中にいる気分だ。

「暑ッ!やっぱり部屋から出なければよかった」

独り言を呟きながら向かった先はコンビニという名の避暑地だ。

特に目的はないのだが、涼むために寄るんだ。

中に入るとそこはもう別世界。

ひんやりとした風が店内を駆け巡って、冷蔵庫の中にいるみたいな快適な空間になっていた。

やっぱコンビニはいいわ。

暑い時はクーラーになるし、寒い時にはストーブになる。

食べ物、飲み物、本だってたくさんある。

まさに現代における理想郷だよね。

店に入ってすぐに雑誌のコーナーに行く。

そしてマンガ雑誌を手に取ろうとしたとき、近くにあったある本に目がいった。

『オンゲーマガジン』と書いてあるその雑誌は、オンラインゲームの専門雑誌だった。

表紙には大きく-Sky Fliers Online-特集と書かれてあった。本当に人気なんだな。

「オンラインゲームか」と呟き、少し懐かしささえ感じてしまった。

3

「いやいや、何考えてんの、もうやめたんだよあんなクソゲー」

邪念を消すために首を大きく横に振り、小さくつぶやいた。

コンビニに流れているBGMが響き渡る。

独特のメロディとリズムが特徴で、今大人気の歌。

タイトルは『やめんなlonely days』

やめんなlonely days

やめんな〜 やめんな〜
やめるばかりじゃ始まらん
続ける事に意味がある
だから後ろ向かず前だけ向いて
Let's go to the. Go to hell

やめて残るのは絶望
続けて見つけるのさ希望
そして掴むのさ栄光
だからY・A・M・E・N・A
やめんな!

巷では人気かもしれないけど、俺はこの歌が嫌いだ。

そもそも歌詞がデタラメすぎる。

『Let’s go to the go to hell』って地獄に堕ちろってことなのか?

それに最後のアルファベットだってよくよく聞いてたら“N”がひとつ足りないし。

これじゃあ「やめな」になって歌と全く逆の意味になってしまう。

“やめんな〜やめんな〜”

止まらない歌。

何度も繰り返す“やめるな”という単語。

もはや文法が崩壊してしまった英語歌詞。

胸の中に溜まっていたものを我慢していたけれど、もう限界。

「もうやめたんだよ!」

思わずコンビニの中で大声を出してしまった。

当然周りの客は不審者を見るような冷たい目で俺を見ている。

近くにいた子どもはビックリして泣き出してしまった。

「あっ……その……えぇ……スイマセン!」

大声で謝った後、缶のコーラを手に取り、急いでレジで会計を済ませ、ダッシュでコンビニを出た。

4

コンビニで買ったコーラを開け、一気に流し込む。

カラカラに乾いた喉に強い炭酸水の刺激が気持ちいい。

半分以上飲み、「ぷはぁー」と大きなため息をついたあと、続けて小さなため息がでた。

「はぁ」

それは自分に対しての、落胆のため息。

何をしたいのか。

欲しいモノはなにか。

どうすれば満たされるのか。

そんな自問に回答できなくて、頭の中で迷走している。

もちろん、欲求不満の理由なんてわからないから、答えなんて出るはずもない。

「はぁー……」とまた、大きなため息を漏らしてしまう。

俺は気晴らしに歩くことにした。

5

もう、どれだけ歩いただろうか。

おそらく30分くらいは歩いているだろう。

目的地がない散歩も結構面白い。

ただひたすら1人で黙々と人通りの多い商店街を歩いていた。

すれ違う人すべての顔は覚えていないが、感じた事は1つある。

ここが現実なんだ、と。

オンラインゲームとリアルは違う。

ゲームの世界が征服されそうになっても、リアルのみんなは焦ったりはしない。

ゲーム1つ無くなったって、生活に支障がでるわけでもないし、死ぬわけでもない。

だからゲームは、ゲームの領域から抜け出せない。

ゲーム内で偉くなっても、英雄になったとしても、現実なんて変わらないし、誰も讃えてくれない。

同じゲームの参加者なら価値をわかってくれるとおもうけど、今まですれ違った人の中で知っているのはどれくらいいるのだろうか。

そんな空想の別世界で活躍するよりも、ここで活躍した方がよっぽど評価が高い。

俺はそう考えた。

「よし、今日から正義の味方を始めよう!」

ゲームで正義を貫けなかった分、現実の世界で正義を貫こうと考えたのだった。

続く。

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ムツキ
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いつでもそこにいるブロガーを目指してる30代農家。 何でもアリの雑記ブログやケータイ小説などを書いてます。