前回まで、
興奮
1
次の日の朝。俺は机に頭をつけて寝ている永太に真っ先に話しかけた。
「bgzbちゃsklんcあんhshlcsんckぁ!!」
興奮しすぎてうまく喋れなかった。だが凄くワクワクしている気持ちは伝わったらしく、
「わかったわかった。とりあえず落ち着け」
と言われた。
俺はとりあえず『スーハースーハー』と深呼吸を2回ほどした。
そして…
「オンラインゲームすげぇな!!」
と目一杯力強く言ったのだ。
「おぉ…そうか、それは良かったよ」
永太はそんな俺に圧倒されたのか言葉に力がなかった。
「いやースゲーよ!!グラフィックとかキャラクターとかさぁ。何よりもストーリーが一番すごかったよ!!」
小学生みたいな感想を並べるだけならべた。でも仕方がない。
本当に凄いものを見ると言葉にできないものだから。
「ふーん、そうなんだ。」
そんな俺の感想を冷静に聞いてくれた永太。そして一言。
「それじゃーさ、何のゲームやってるの?んでどこまで進んだ?」
永太がそんなこと聞いてくるもんだから、俺は自信満々に、
「やってない!!」
と力強く答えた。
「はぁ!?やってないのか。それじゃお前何に凄いって言ってたんよ」
「デモムービーだ!!」
永太は軽蔑するような冷たい目で俺のことを見てきた。
「…はは、お前面白いな。わかったよ、教えてやるからとりあえず席につけ」
「何でだよ、今教えてくれたっていいじゃんかよ」
「…後ろでお前のことを狙っている奴がいるからだ」
そう言われて後ろを振り返って見ると、そこには出席簿を今にも振り下ろそうとしている担任の先生がいた。
2
昼休み。俺と永太は弁当を食べながら話をしていた。
「はーっはははは!!やっぱりお前はおもれーよ!」
永太は俺の赤く腫れた顔面を見て、それを指差しながら馬鹿にするように笑っていた。
「笑うなよ!!こっちはメチャクチャ痛かったんだから!」
実は朝、担任の先生が来ても席につかなかった俺は、先生に出席簿で叩かれたのだ。
ただ先生は頭を叩くつもりだったのだが、俺が振り向いたせいで、先生の通信簿を顔面で受け止めてしまったのだ。
その後滝のように鼻血が出てきたので上を向きながら保健室に駆け込んだ。
当然みんな大爆笑。
「良かったじゃん。これでお前はクラスの人気者だな。」
永太は笑いながら言った。
説得力がない。
「うるさい、あれから休み時間に『よっ、顔面白刃どり』ってバカにされてるんだぞ。」
俺は目を見開いて叫ぶように言った。
3
「それよりもダウンロードの仕方を教えてくれ」
話題を変えた。もう鼻血の話題に触れたくないからだ。
「わかったよ、まず会…」
「待て!この前みたいにまたメモってくれ。」
そう言って俺は国語のノートを出した。
「これくらい覚えろよ。ってか何で国語のノートなんだよ。メモ帳買えよ。」
「メモ帳買うのにお金使うのもったいないし、国語のノート書いている量少ないしさ。」
「国語のノートを授業で使わない方がもったいねーよ。ってかお前バカだろ。」
永太は呆れたような顔で俺を見た。
だが優しかった永太は「しょうがない」と言いながら国語のノートに書いてくれた。
「これでOK」
永太はダウンロードの仕方を書いた国語のノートを渡してくれた。
「えっ?こんだけ?」
俺はノートを見て驚いた。
だって書かれていた内容が、
- 会員登録をする
- ゲームを選んでダウンロードをクリック
- 後は説明を見ながらやれ
の3行。
「これだったら口で説明されても大丈夫だったわ」
書かれた内容が予想よりもはるかに少なかったため、つい本音を言ってしまった。
「だから言っただろーが!!」
「いや、もっと複雑な揉んだと思ってたからさ…」
「なーにーもーめーてーるーのっ?」
俺と永太でもめてた時、後ろから聞き慣れた女子の声が聞こえた。
4
「よっ、カナちゃん。元気?」
「なんだ、カナタかよ。」
「私で悪かったわね、バカハジメ」
この気の強い女子は大塚カナタ(オオツカカナタ)。
幼稚園の頃からの幼馴染で、小学校から今までずっと同じクラスだったため、高校入学式の時に「奇跡だね」と互いに盛り上がった。
髪型はショートヘア。顔立ちもいいから男子にはモテるらしいのだが…。
「あっ、そういえば朝先生の攻撃顔面で受け止めてたわねーさすがバカハジメ」
男勝りな性格のせいなのか、なかなか彼氏ができないのだ。
「そういえば、何の話をしていたの?」
カナタは俺たちが話していた内容を聞いてきたが、俺は話したくなかったのだ。
だってカナタに話すとメチャクチャバカにして返してくるんだ。性格は良くないかもしれない。
「な、何でもねーよ」
俺に聞いても意味ないと思ったのか、カナタはかわいこぶりながら永太に、
「ねぇ、オ・シ・エ・テ」
とゆっくり言った。
お前はホステスかキャバ嬢かとツッコミたくなった。
「オンラインゲームの事だよ。肇がやりたいって言ってたから」
素直に白状する永太も情けないと思った。コイツは頭は良いんだけど女子の色仕掛けに弱いな。
「へぇー、オンラインゲーム…ね」
カナタはまるで汚いものを見るような眼差しで俺を見ている。
なんか腹が立つ。
「何だよ!ゲームやって悪いかよ。ってか最初に教えてくれたのは永太の方だぞ。」
「でもやるのはバカハジメじゃん。それなら誰が教えたとか関係ないじゃん。」
侮辱されたみたいだった。
そして笑いを堪えるように口を手で押さえて一言、
「……オタク」
と呟いた。思いっきり軽蔑した態度だ。
「勝手に言ってろ」
そこは大人の対応で激昂することはなかった。
そういった挑発はキレたところを見て面白がるものだと思っていたから、変に乗らない方がいい。
この対処法が長年カナタと一緒に過ごして学んだことなのだ。
そしたらカナタが、クラスのみんなに聞こえるような大きな声で、
「ハジメはヘンタイなんだって!!」
と叫びやがった。
思わず立ち上がって叫び返した。
「ヘンタイ言うんじゃねーよー!!」
続く。
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