前回まで、
幸福の法則
7
俺は痛い背中に耐えながら逃げようとした。
心臓はバクバク脈をうって、振動が胸板まで伝わってくる。
手や足は何いかに取り憑かれたように震えていて上手く立つことさえできない。
永太は俺との距離をゆっくりと縮めてくる。
ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、
永太の足音がカウントダウンに聞こえてくる。
この音が止まった瞬間、殺されると確信した。
四つん這いになりながら必死に奥に奥に逃げていく。
コツンと何か硬いものに頭をぶつけた。
「行き止まりだ」
目の前には大きな壁があった。
ザッ、ザッ…
足音が止まった。
振り返ると永太は腕を伸ばせば届く位置まで来ていた。
隙間から差し込む太陽の光が永太を照らす。
その表情は不気味なほどに嬉しそうな表情をしていた。
「さよならだ肇、俺の幸福のために」
その言葉を最後に俺は意識を失った。
8
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
って大声を上げながらベッドから起き上がった。
辺りはまだ暗く、時計の針は午前2時を指している。
…ここは病院、霊安所、それともあの世か?
と頭の中で考えながら辺りを見渡したが、すぐに自分の部屋だと気づく。
「夢…だったのか」
寝汗がひどくてベタベタする。さっき見た夢のせいだろうか。
少し不安になった俺は昨日寝るまでのことを思い出そうとした。
「えーと、確か永太がテストの点数で落ち込んでて、帰りに声をかけても反応してくれなくて、とりあえず明日励まそうと決めて帰宅して……あれ、その後は…そうだ晩御飯食べてゲームでレベル上げてそれから寝たんだっけ」
ようやく夢と現実の間から抜け出せた。
まるでなぞなぞの答えがわかった時のように頭の中がスッキリした。
「よし、解決解決」
安心してまた布団の中に入り眠る。
今度は怖い夢を見ないようにと念じ、目を瞑った。
朝になった。
今度は怖い夢も見ることなくスッキリとした良い目覚め。
背筋を伸ばし、ふと時計を見ると、
針は9時を指していた。
9
時は昼休み。
遅刻確定だったのでお昼ご飯を食べてからゆっくり午後に登校してきたら案の定怒られた。
まず学校に連絡しろ、なるべく早く登校する努力をしろ、
とにかく『しろしろしろしろ』うるさかった。
こっちは夢で友人に殺されかけて心の余裕がないって言うのに。
教室に入り席に着くとカナタがニコニコしながら近づいてくる。
「何があったのさ、こんな時間に登校しちゃって」
「うるさい、こっちは今傷心中なの」
俺は今日見た夢の詳細をカナタに話した。
カナタはうんうんと俺の話を聞いてくれて、「それは大変だったね」と労いの言葉まで言ってくれる。
いつもバカにしてくるけど、困った時はいつも近くにいてくれる幼馴染だ。
見た目も可愛らしいし、モテないわけがない。
「で、その言い訳は担任に言ったの?
『怖い夢を見て寝れなかったから寝坊して遅刻したんです、エーン!』
って」
カナタがまるで挑発しているかのような、明らかにバカにしたしゃべり方できいてきた。
「言うわけねーだろ!ってかエーンは余計だバカ!」
カナタはお腹を抱えて涙を流しながら大笑いしてる。
やっぱりムカつく。全然労ってないじゃん。
続く
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