前回まで、
オフ会
4
振り返ると、会社の制服を着た女性が立っている。
年齢は24歳くらいの大人の女性だ。
ブロンドのセミロングでパーマ。
小顔、小さな鼻、そして大きな目。整った顔立ちはどこか芸能人の香里奈さんにそっくり。
身長はそんなに高くない。多分160cm前半くらい。
控えめにいってメッチャ美人なんだけど、この人どこかで見た覚えが…。
「久々ねはじめくん、大きくなったね」
ブロンド香里奈は俺の名をいった。
「えっ!バカハジメってこんな綺麗な人と知り合いなの?」
カナタは人目を気にせず大声で叫んだ。
とはいうものの、俺はこのブロンド香里奈が誰なのかを知らない。
どこかであったような、みたいな微かな記憶しかない。
「肇の彼女?」
永太はニヤニヤしながら俺にきいた。
「いや、そんなんじゃなくてさ、その、あの、」
パニック状態だ。頭がパンクしている。
ブロンド香里奈は俺のことを知っているのに、俺はこのブロンド香里奈を知らない。
普通だったらメチャクチャ失礼でしょ。
しかも、カナダや永太はなんか勘違いしているし。
この状態は非常にマズいと俺の第六感がいってる。
現状を乗り切らないといけないわけで、
考えた末、俺はブロンド香里奈の方を向き、ポケットに手を入れて少しメンチ切った感じで、
「…あんた誰だっけ?知らねぇなぁ」
とヤンキーっぽくブロンド香里奈にいい放つ。
永太もカナタも梢ちゃんも、さらにはブロンド香里奈でさえドン引きしている様子がうかがえる。
いや、俺はピンチの場面で弱みを見せたらダメだと思ってヤンキーみたいにしたのだけど。
「そのぶっ飛んだ発想は昔から変わらないね、知らないなら知らないってハッキリいえばいいのに」
ブロンド香里奈は呆れた表情で俺を見た。
「池田奈々(イケダナナ)よ、覚えてないの?」
今度は寂しそうな表情できいてきた。
5
「池田な……ああぁぁぁぁぁぁ!」
そう、思い出した。
俺はブロンド香里奈もとい池田奈々のことを知っている。
「思い出したの?」
梢ちゃんが俺の顔を覗き込んできいた。
「うん、この人は智也のおねーさんだ」
池田奈々。
思い出せないのも無理はない。
だって印象がまるで違うんだから。
俺が最後に奈々さんにあったのは小学1年生の頃。
奈々さんは中学校3年生で、こんなギャルみたいな格好をしていなかったんだよ。
真面目で優等生みたいな地味な女子って感じ。
今は当時の姿とは真逆でイケイケな印象を受ける。
だから気が付かなかったんだ。
「初めまして〜池田智也の姉で〜す、よろしくぅ」
奈々さんはニッコリ満面の笑顔で敬礼をした。
「てっきりハジメの彼女さんかと思いましたよ」
「ナイナイ、こんな男彼氏にするなんてありえないじゃん」
(いや、そんなにハッキリと言わなくても…)
カナタと奈々さんの会話を横に勝手に落ち込んでしまった。
いや、奈々さんとは釣り合わないって分かっているけど、あまりにもストレートすぎてヘコむ。
しかし、女の子は怖いし何考えているかわからない。
一度だけ立ち読みした『モテる男の心構え』って本には
って書いてあったけどなんか胡散臭いんだよな。
現にカナタも奈々さんも本人が『ぐさっ』と胸に突き刺さるようなことを平気で言うからさ。
男の俺たちは迂闊に何も言えなくなる。
本音が隠れているというか、本音が先行して出てきている感じ。
女の子って本当に何考えているのかわからない。
「と、とりあえずみんな中に入ろうよ、続きは中で話そう…ね」
永太は中に入ろうと促した。
6
歌王の一室。
俺と永太が隣同士で座り、残りの女の子3人がテーブルを挟んで向かい側の席に座った。
男女が向かいあっている感じだ。
何となく合コンに見えなくもない。
これでBINGO!!さんもきてくれたら完璧な3対3の合コンになっていただろいうね。
女子は全員知り合いだったけど。
「と、いうことで自己紹介しまーす」
奈々さんはマイクを手に取り、自己紹介を始めた。
「池田奈々、24歳でーす。会社員していまーす」
パチリと左目をウィンクした。
その気がないのにほんとよくできるよな。
「そしたら、次はアナタね」
ハイと隣にいた梢ちゃんにマイクを渡した。
マイクを持った人が自己紹介をしていくシステムらしい
「えと、あ、雨宮梢です。15歳。西高で高校生をやってます」
梢ちゃんの自己紹介は、こんな弾けた場面でも堅い。
真面目な性格がよく出てる自己紹介だ。
「大塚カナタ、15歳。みんなからは『カナちゃん』って呼ばれてます。これでもバカハジメの幼馴染なんでーす」
カナタは明るい自己紹介だった。
でもなぜ幼馴染を持ち出すんだ。
この場では関係ないだろう。
「城戸永太15歳。これでも柔道やってます」
永太の自己紹介はなんだかありきたりすぎて面白くない。
あえていうなら、柔道やってますって情報はいるだろうか。
「よし、次は俺の番っと」
マイクを永太からもらった時だ。
「あっハジメくんはいいよ。みんな知り合いだし」
自己紹介しようとした俺を静止したのは奈々さんだった。
「いやいや、俺にも自己紹介させてくださいよ」
必死の抵抗。
するとカナタは2本目のマイクを手に取り、
「名前は瀬川肇、特技はバカをすること」
って言いやがった。
「カナちゃんそれマジウケる〜」
お腹を抱えながら笑う他のメンバー
すごくバカにされた気分で腹を立てたので、大声で、
「霊長類なめんなよ!」
って反論したのだが、
咄嗟に出た言葉で、
他のメンバーも、
なんなら言葉を発した俺でさえ意味わからなくて、
みんなキョトンとした顔でこちらを見ていた。
続く
女の子はなんでもオブラートに包んで会話します。
要は本音を直接言ったりはしません。
だから男性の皆さんは空気を読みながら、相手の本音を引き出していかなければならないのです。
木下弥太郎 著『モテる男の心構え』より抜粋(嘘)