前回まで、
最初から読む?
絶対、絶命
1
ブラックアウトした画面からPV用のステージに切り替わった。
地平線さえ定まらない砂の海が背景で、ギラギラしている太陽がこれからの死闘を見守る。
なんせ相手は、プレイヤーを躊躇なく削除してくるKILL°°BEだ。
- レベル46
- 体力200
- 得意武器は大剣
- 力の解放未習得
- レベル131
- 体力170
- 得意武器は不明
- ハネツキ
体力はこちらに部があるものの、実力は間違いなくKILL°°BEの方が上。
DINAの体力がなくなると、つまりKILL°°BEに負けるとそのまま削除されることになるだろう。
いつもだったら負けてもリセットされてまた挑戦するだけなのだが、今回は負ければ即死。
コントローラを握る手がいつもより汗ばむ。
- KILL°°BE
- 考エ事か?
ボォーっトしてたらタヒぬゾww - DINA
- ちげーよ!
今からお前をどうやって倒そうか考えていたところだ!
実際は自分のことで頭がいっぱい。
というより、『DINAが消されるかもしれない』という恐怖に支配されていた。
後に引けなくなった状況に押しつぶされそうになっていたから、気持ちだけでも負けないようにと虚勢を張って誤魔化した。
- KILL°°BE
- ナら、始メるぞ!
KILL°°BEのチャットが表示されると、黒いオーラを放つ剣を装備した。
2
(この剣がkilliNg saberで間違いないだろう)
瞬時にそう悟った。
禍々しいほどに黒いオーラを放つ剣が、公式から出るわけがないと考えたから。
- KILL°°BE
- カッコいイだろ?
killiNg saber
何人モ
メ几
木又しテきた凶キww
読みにくい文章で煽ってくる。脅しているつもりだろうか?
だが、俺は幼稚な脅しには屈さないし、ここから生きて帰るつもりだ。
そのための作戦もある。
名付けて『チリも積もれるhit & away作戦』
概要は以下の通り。
- KILL°°BEの攻撃を避ける
- 攻撃後の僅かな隙を狙って攻撃
- 当てたら追撃を避けるために即距離をとる
- KILL°°BEの攻撃を待つ
- ①に戻る
1回に与えるダメージは少ないが、繰り返して攻撃をすればいつかは勝つ。
地道だが、生き残るにはこの作戦しかない。
3
PVがスタートしたが、俺もKILL°°BEも動こうとはしない。
DINAの命がかかっている大事なPVだから、無駄な動きをして隙をつくりたくない。
そんな沈黙を破ったのはKILL°°BEからだった。
[ラちがあかナい!]といいながら、猛ダッシュで近づいてきた。
(避けて、当てて、逃げる、避けて、当てて、逃げる…)
頭の中で呪文を唱えるように何度も何度も復唱した。
避けて、当てて、逃げる。
それをやるべきだと自分自身に暗示をかける。
などと考えているうちにKILL°°BEとDINAの距離はどんどん近くなっていく。
そしてダッシュの勢いそのままで、攻撃を仕掛けてきた。
俺はKILL°°BEの攻撃する瞬間を見計らってその場にしゃがみ込み回避した。
そのまま立ち上がる勢いでKILL°°BEにアッパーを放つ。
KILL°°BEはガードするも間に合わず、DINAの攻撃は成功した。
そしてすぐにバック転を繰り返し、KILL°°BEとの距離をとる。
『チリも積もれるhit & away作戦』は成功したものの、減らした体力はわずかに4。
カウンターアタックを決めたのに減りが少ないのはレベルの差が大きい。
DINAにはかなり不利だ。
だが、避けて、当てて、逃げるといった『チリも積もれるhit & away作戦』が成功したのだから、状況は不利とは思わない。
元々小さく体力を削る作戦だし、こんなの想定の範囲内だから。
むしろ、やればできるといった達成感の方が大きい。
- KILL°°BE
- コノヤロウ
たカが初心者の分際デ!!
KILL°°BEの闘志に火がついたみたいだ。
4
それからというと、KILL°°BEは何度も同じ戦法で仕掛けてくる。
その度に俺は攻撃を当てていき、徐々にではあるが確実に体力を削っている。
攻撃を避けては、隙をついて、バック転で下がりまた避けて…。
ずっとこの繰り返し。
だけど、地道にコツコツと続けていると効果はあるもので、
170あった体力が徐々に減っていき、遂に100を切った。
(よし!あともう少し!)
最初は勝てる可能性なんて少しも感じなかったけど、今は違う。
勝てる。
しかも、KILL°°BEに勝てる。
目の前の『勝利の可能性』を感じたら、冷静になんていられない。
心臓はドキドキし、指にも力が入ってしまう。
- KILL°°BE
- なぜダ!なぜ攻撃が当たラナいんだ!
KILL°°BEの文章からも焦りが読み取れる。
俺は勝利を確信した。
続く。