前回まで、
リベンジダイブ
1
約束の日に、俺は珍しく机に向かって夏休みの宿題をしている。
現実逃避かな、オンラインゲームから逃げるために。普通逆だけどね。
でも、勉強が苦手な俺は何度も誘惑に負けた。
本棚に戻し忘れたマンガに目が行けば、そのままマンガを読んでしまう。
好きなテレビの時間になると、勉強そっちのけでテレビに夢中になった。
おかげで宿題プリント30枚の内、終わらせることが出来たのは僅か3枚。
まだ10分の1しか終わっていない。
「はぁ」
自然とため息が漏れ、慣れない勉強のせいか頭も痛くなってきた。
雄叫びをあげ頭をかき、思いっきり机に頭突きをした。
置いてあったシャープペンシルがおでこに刺さり、かなりの激痛で悶えることとなる。
おでこを抑えながらベッドにゴロンと横になり、そのまま仰向けになり天井をみた。
なれないことはするもんじゃないと心で呟きながら、ふと壁掛けの時計に目がいく。
18時50分、約束の時間まで10分前。
忘れていたわけではない。
奈々さんの話を無視したわけでもない。
ただ、一度挫折した世界に戻ることに躊躇していたのだ。
一度絶望を味わい辞めると宣言し、もう戻らないと決意した俺と、奈々さんとの約束は守らなきゃならないという使命感が強い俺がケンカをしているんだ。
よくドラマやコントで出てくる『天使と悪魔』が囁いているやつ。
だけど、ふと頭によぎった一つの言葉。
「アンタじゃなきゃダメなの」
2
疑問ばかりが次々と浮かんでくる。
考えれば考えるほど『別に俺でなくても良い』という決断になってしまう。
(なんでなんだろう……)
必死に考えながらも、俺の目線はあるものの先に向いている
オンラインゲームをしていたパソコンだ。
脱オンラインゲーム宣言をしてから一回も触ってなかったから、少し埃が被っている。
最初は、その埃を払うだけのはずだった。
手でパソコンの埃を払い、近くにあった布巾で軽く拭いた。
『ブォーン』
間違ってパソコンのスイッチを押してしまった。
そこで電源を切ればいいのだが、どうしても奈々さんの言葉が引っ掛かる。
(アンタじゃなきゃダメだって、なんでわからないの!?)
俺は机の引き出しにしまったコントローラを取り出し、パソコンに繋げてログインした。
3
たった数日の期間離れていただけなのに、なぜか懐かしい気持ちになる。
始まりの街からのスタートは変わらないし、ゲームのグラフィックだってそのまま。
大袈裟かも知れないけど、里帰りしたようなそんな感覚になった。
- SEVEN
- JINK、来てくれたんだ
ログインして早々に話しかけてくれたのは赤髪でポニーテールの女侍。
奈々さんの使用キャラクターSEVENだ。
- JINK
- 夏歌詞違
『懐かしい』と打ったつもりだったが、久々のキーボード入力もあってか、誤字のまま送信されてしまった。
- SEVEN
- スマヌ、人違いだったみたいだ
どうやら外国の方に話しかけてしまったみたいだな
SEVENさんはくるっと回れ右をしてその場を離れようとした。
(マズい、早く誤解を解かなきゃ)
- JINK
- 著著著著著、著っと舞ってくだ祭、JINK出逢って桝よ
画面を見ずに送信したものだから、画面が誤字祭りになっていた。
誤解を解こうとしたのに、ますます誤解を生む文章になってしまった。
- SEVEN
- とにかく落ち着けw
とりあえずSEVENさんは立ち止まってくれた。
ただ、チャットの文章はどこかバカにしているようにもみえるけど。
- JINK
- 久々のパソコンだからこんなもんすよw
ってかやっぱりわかっていたんですねw - SEVEN
- 当たり前田の慶次郎
同じキャラクター名は存在しないからな
それに誤変換はJINKの十八番だしなw - JINK
- そんなにバカにするな
それに俺の出席番号は12番だからな
俺の返答にSEVENはただ[ww]と返したのみだった。
つづく。
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