前回まで、
夢のオワリ
1
洞窟には、JINKとSEVENさんの2人だけしかいなかった。
KAHLUAはきっと病院にでも飛ばされたのだろう。
初心者狩りとたかを括ってバックWPを持っていなかったに違いない。
SEVENさんは俺に近づき、チャットが表示された。
そこには[おめでとう]という祝福と[ありがとう]という感謝の言葉がともに書かれていた。
俺も、すかさずSEVENさんにお礼の言葉を述べた。
[ありがとうございます!SEVENさんのおかげで初勝利を掴めました!]と。
- SEVEN
- ううん、今回勝てたのはJINKの実力だよ
やっぱりJINKを信じてよかった
このチャットのあと、今回の作戦を伝えてくれた。
2
KAHLUAはとても自暴自棄になっていたみたい。
成功しか経験していない人だと思ったから、何度も立ち上がってリトライする姿を見せたかったのだと。
そのために、戦いのセンスがないJINKに協力してもらうことにしたらしい。
[いやそれってメッチャ失礼なこと言ってません?]
というツッコミを無視しながら、SEVENさんは続けた。
- SEVEN
- 私はね、JINKの諦めない根性を信じていたの
きっと勝ちに手が届くってわかったらリベンジに来るって信じていたから - JINK
- でも、俺がまた諦めて投げ出してたらどうするつもりだったんですか?
そしたらKAHLUAとの目的は果たせなかったんじゃないですか? - SEVEN
- その時は清く諦めてまた別の作戦を練るつもりw
私も執念深いからw - めっちゃコワww
SEVENさんの執念深さはさておき、なぜ俺が選ばれたのかは理解できた。
それと同時にSEVENさんの役に立てたことが天にも昇るように嬉しかった。
俺はいつもチームの足を引っ張る存在だと思っていたから、この気持ちは初勝利の喜びよりも数段優っている。
- SEVEN
- そしたら、私はここで帰るね
今度はいつ会えるかわからないけどw
喜びも束の間に、SEVENさんは突然別れのメッセージを伝えた。
あまりにも自然な流れだったものだから勢いよく二度見をしてしまった。
3
理解が追いついていない。
いや、本能的に理解しないようにしているだけかもしれない。
[いつ会えるかわからない]
納得がいかなかった俺は、強い口調でチャットを返信した。
- JINK
- いつ会えるかわからないって……
どういうことですか!? - 読んで字の如くだ
拙者、このゲームをやめるで候
KAHLUAをゲームから助け出すことができたから
目的達成!あっぱれじゃ!
いやいや、今更キャラを戻すなよ!
ただでさえSEVENさん、武士言葉と標準語が入り混じっていたんだから。
というかそれどころではない。
一度脱落した俺を誘っておいて、自分はさっさと抜けるなんて卑怯だ。
- JINK
- 俺をひとりぼっちにさせるんですか?!
そんなの嫌ですよ!
必死に喰らいつくも、[それはできぬ]の一点張りだった。
SEVENさんの目的はあくまで達成したこと。
JINKの目的はこれからだということ、
そして何より、MOMOKO、SID、GINJIと仲直りしなさいということ。
SEVENさんというか、奈々さんとしての意見がチャットに表示された。
俺は、渋々受け入れるしか選択肢がなかった。
SKULDAさんに加えてSEVENさんも失うなんて。
4
- SEVEN
- 今、正直どんな気持ちだった?
SEVENさんからのチャットが表示される。
こんな時にインタビューされても困るのだが、真面目に答えている俺がいる。
[悲しいというか裏切られた気分です、上手くいえないんですけど『なぜ』という言葉が浮かんできました]と。
その答えにSEVENさんは[ふーんそうなんだ]と答えるのみ。
なんだか小馬鹿にされている気分で腹立たしかった。
頭に血が上った俺は勢いで返信する。
[いい加減にしてください、こっちは真剣に怒ってます]と。
怒りのチャットに対してSEVENさんは秒で返信してきた。
- SEVEN
- あの3人も同じこと思っていたかもよ
その内容に返信することができなかった。
5
黙り込んだ俺にさらにチャットが届いてくる。
[GINJIくんたちはきっとJINKと同じ気持ちになったと思うよ]
俺の心の中では拒絶にも似た否定の言葉が飛び交っている。
違う違う違う、絶対、絶対違う、
って何かの歌詞みたいに何度も頭の中でループしている。
GINJIたちはそんなこと思ったりはしないということ。
足を引っ張る俺がいなくなってスッキリしたんじゃないかということ。
だから俺なんていなくてもいいということを、オブラートに包まずそのまま伝えた。
[確かにそうだね]と返ってくることをどこか期待していたのだけど、SEVENさんの返信は違った。
- SEVEN
- 果たして、引っ張っていたのは『足』だけだったのかな?
- JINK
- えっ
- SEVEN
- MOMOKOちゃんから話を聞いたんだ
チームが解散したあと、みんなバラバラになっちゃったんだって
それぞれ単独で活動していて、もうしばらく会ってないみたい
JINKがいた時が一番楽しかったって
俺は言葉が出なかった。
解散したあと、みんなで仲良く新チームを組んで、ゲームを楽しんでいるんだと思っていた。
でも実際は違っていて、それぞれの道を歩いている。
(このままじゃ、ダメだ、Team Xには勝てない)
心の奥底にしまっておいた情熱が、今再び熱を帯びているのがわかる。
気合いもやる気も、前の俺とは違う。
PVに初勝利したから、何をやっても上手くいく。
今ならなんでもできる、空も飛べるはずだと強く感じている。
- JINK
- SEVENさん、教えてくれてありがとう
俺、強くなるから
そしてまた、チームを作ったら誘うね
SEVENさんは[うん]と一言だけ返し、ゲームからログアウトした。
JINKのレベルをあげ、またチームを作る。
そのために洞窟を出て、レベルを上げるためにフィールドを走り出した。
時刻は夜の12時を回っていたが眠気なんて感じない。
俺はキーボードからコントローラに持ち替え、力強くギュッと握った。
つづく。
お知らせ
毎週水曜日に更新してきた空想戦記をお休みさせていただきます。
次回更新再開は4月5日の予定です。
※この文章は更新が再開されたと同時に削除します。
ではまたー。
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