前回まで、
【第35回】空想戦記 -Sky Fliers Online-
昼休み、屋上で
1
次の日の昼休み。俺は永太と共に屋上で昼食をとることにした。
教室でゲームの話をすると智也がケチをつけてくるから、
屋上に逃げて弁当を食べながらゲームの話をしてるわけなのだ。
「なぁ永太、『DOLPHIN事件』って知ってる?」
俺は弁当の蓋を開けた永太に向かって問いかけた。
「知ってるけど、なんで今更?」
「昨日BINGO!!さんから《DOLPHIN事件を調べてみろ》って言われてさ」
ものすごくキレられたけどね。
「それはなぁ…確か結構前の出来事だったような気がする」
「結構前って、あのゲームってそんなに歴史あるゲームだったの?」
「歴史あるって言っても3年程度だよ。まぁ世の中には半年持たずにサービス終了するゲームもあるからね。歴史は長いほうかもな」
「へぇーそうなんだ。したらレベルの高い人って結構前から参加していたんだ」
「そうだね、Team Xとかはかなり有名だったから初期の頃からログインしてたんじゃないかな」
「だからか!レベル100超えるプレイヤーがゴロゴロいるから、どんだけ引きこもってゲームしてるんだよって言いたかったのさ」
「んなわけないだろ!」
いや、永太の言う通りだよ、うん。
2
「話がそれたけど、『DOLPHIN事件』ってどんな事件なのさ?」
Sky Flyers Onlineのちょっとした歴史はわかった。
だが、今日知りたいのは『DOLPHIN事件』のことだ。
「そうだな、簡単に言えば『仲間を間違って殺した』って事件かな?」
「えっ、ゲームが原因の殺人事件?!」
ゲーム内のトラブルが現実の世界にまで飛び火して、事件に発展してしまうと考えてしまった。
俺は今とんでもないゲームに触れていると思い、恐ろしくてガタガタ震えていた。
そんな青ざめた俺を見て察したのか、
「殺人事件じゃなくて、ゲーム内のキャラクターが消されたってことね」
と呆れた口調で訂正した。
俺は内心ホッとした。
「でも、それ以上のことは知らない。しばらく前の出来事だから調べないとわからないな」
永太もゲームを始めたのって中学を卒業してからだからわからないのは当然か。
俺の期待は見事に裏切られたので、
「永太の役立たず」
と、小さな小さな声で囁いた。
「肇よりは役にたっていると思うけどな」
バッチリきこえてたみたい。
「なんだと!」
「なんだよ!」
まさに一触即発の状態だったその時、
「ハイハイ、2人ともケンカはヤメッ!」
後ろからきき慣れた声が飛び込んできた。
振り返るとすぐ後ろにカナタの姿があった。
そして、カナタの後ろにはもう1人。
「け、ケンカは……だめだよ」
弱々しい声でそう言ったのは、雨宮梢ちゃんだった。
3
「ねぇ、私たちもここにいていいかしら?」
「いいけど、急にどうしたんだ? いつもだったら教室で食ってるのに」
普段カナタは、クラスの仲のいい女子数名と教室で一緒に弁当を食べている。
なのに今日は梢ちゃんと二人だけだから疑問に思ったのさ。
そしたらカナタは梢ちゃんの方をみて、
「梢を助けようと思ってさ」
と少し怒り口調でいった。
その梢ちゃんは、申し訳なさそうに肩を窄めて下を向いた。
表情もなんだか暗い気がする。
「雨宮さんに何かあったの?」
永太が心配そうに声をかけた。
カナタは怒り口調で、
「男子たちが『梢はメガネ美人だ』とか『隠れ巨乳だ』 とか変な噂を流したの!誰が言い出したのか知らないけど、少しは梢ちゃんのことも考えなさいよね!」
と、何も関係ない俺に向かって怒鳴りつけた。
「い、いや俺に言われてもな」
カナタの怒りに思わず後退りしてしまう。
いつも俺をバカにするカナタとは違う、火山が噴火したような怒り方だ。
「あ、あの…大塚さん、この人は悪くないよ」
梢ちゃんは興奮したカナタを止めようと、必死に右腕にしがみついていた。
「あっ、そうだよね」
必死さが伝わったのか、カナタは冷静さをとり戻したみたいだ。
「まったく、怒る気持ちはわかるけど、俺には当たるなよ」
カナタは怒ると周りが見えなくなる。
過去に何度も巻き込まれたからもう慣れたけどね。
4
「ホントに男って何考えているかわからないんだから!」
カナタは愚痴を言いながら俺の横に座って弁当を広げている。
梢ちゃんもカナタをなだめながら横に座った。
「でもなカナタ、俺は雨宮さんをみたい男の気持ちがよくわかる」
「なんでさ」
カナタには男の気持ちがまだわかってないみたいだ。
だから男子代表として、男の気持ちを伝えることにした。
「見た感じはメガネに三つ編みだから真面目な委員長タイプに見えるけど、育ちがよくてお嬢様って雰囲気があるんだよね。他には純白というか純粋ってイメージもあるかな。だから勉強以外の事を教えてあげたいって気持ちになって…」
「それって『ヤラシイ目』で見てるってことでしょ」
カナタのツッコミがクリティカルヒット。
「い、いや、俺はべつにヤラシイ目でなんて見てねーよ!」
焦って声が裏返ってしまう。
「そんな言い訳しなくてもいいよ、今日から『エロハジメ』だもんね」
「勝手に変なあだ名つけるなぁぁぁぁぁぁ!また誤解されたらどうするんだよぉぉぉぉぉ!」
ヘンタイ疑惑がやっと沈静化したのに今度はエロ親父疑惑。
こんなものクラスのみんなに広まったらただじゃ済まない。
だから俺の反応を見て楽しんでいるカナタを必死に止めた。
「それは誤解とはいわないの、せ・い・か・い」
「せ・い・か・い」の後にニッコリと、いたずらっ子の笑顔を見せた。
「グゾガナ゙ダァァァァ!!」
俺は言葉全てに濁点入れて話せるくらい怒り狂っていた。
この時点で頭にツノが生えていたと思う。
そんな、怒りで周りが見えなくなっている時に突然、
「フフフッ」
と少し上品な笑い声が聞こえた。
梢ちゃんが、右手を軽く握って口元に当ててフフフッと笑っていた。
その姿は本物のお嬢様そのもの。
「あっ、ごめんなさい…あまりにも楽しかったので、つい」
ニッコリとした笑顔。
さっきの暗い表情とは違い、天使のような微笑みだ。
そして、
「また、このメンバーでご飯食べたいなぁ」
そう呟いた。
5
「全然いいよ、また逃げたくなったら俺たちのところにおいでよ」
永太はニッコリと笑い、親指を立てていいねのサインを見せた。
「ありがとう!あっ、あの…」
勢いで話しかけては見たものの、梢ちゃんはハッとしてオロオロし出した。
きっと永太の名前がわからなかったんだろう。
「城戸永太です、よろしくね雨宮梢ちゃん」
永太は察し他のか自分から名乗った。
そつなくこなす感じがかっこいいがなんか憎らしい。
「うん、永太くんよろしくね」
「えっ、あっ、うん」
永太は顔を赤らめて照れていた。
まだ女の子の免疫は持ってないみたいだ。
「永太は柔道も習ってるからね、頼りになると思うよ」
「そうなんだぁ……えと、あっ、エロハジメくん」
ここにも脅威がいた。
まさか梢ちゃんの口からエロハジメなんて言うと思ってなかった。
「うん、あってるけどエロはいらねぇ」
このままみんなに広まるのも怖いから、少し強い口調で否定した。
そしたら梢ちゃん、涙目になりながら、
「ハッ!! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
何度も何度も頭を下げた。謝罪の無限ループと化した。
「いや、そんなに怒ってないから、エロハジメだけはやめてね」
梢ちゃんの動きは面白かったが、許さないと永遠に謝罪していそうなので許した。
「私のことも守ってー」
カナタが急にぶりっ子口調になった。
「 カナタは守られる必要ないべ」
普段のカナタを知ってる俺から言わせれば、カナタは守る必要はない。
これだけ口調が強かったら、男子は近づきたくても近づけないだろう。
元気で明るい活発な女子なんだけどねぇ。
「なによ、エロハジメのバカハジメ!」
「バカはいいけどエロはやめれェェェェェ!」
バカはいいとか要らないとか、俺もよくわからなくなってきた。
ただ、変わらなかったことは、このメンバーといて楽しかったということ。
そしてこのメンバーならなんでも乗り越えられる気がしたんだ。
こうして俺たちは、時間を忘れて屋上で楽しく話をしていた。
その後4人揃って5時限目に遅れ、先生にメチャメチャ怒られたことは言うまでもない。
楽しい時間って、なんで早く過ぎ去ってしまうんだろうね。
続く。
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